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平成 22 年度(2010 年度)事例 Ⅰ 解答解説 ​

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第 1 問(配点 30 点) ​

設問文 ​

A 社が主力事業としている砂糖業界の環境変化と事業展開の変容について、以下の設問に答えよ。

設問 1 ​

過去に成功してきた事業展開の中で、A 社のような一次問屋にとって二次・三次問屋とのネットワーク構築が強みとなった理由について 100 字以内で説明せよ。

回答例(100 字) ​

二次・三次問屋の大規模な網を通じて地方の末端顧客へ商品を届け、販売量と商圏を確保できたため。オーナー同士の親密な関係が継続取引と情報交換を支え、長年築いた強固な網が他社への切替や参入を難しくしたため。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、 過去のネットワークが強みとなった理由 です。人的つながりがどのように商売を支えたかを、 安定販路と参入障壁 の二つの働きから100字で説明します。

与件文から相場商売を支えた関係を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第3段落: 相場が下がれば買い取って、上がれば売る とあります。仕入れ・販売のタイミングを見極める商売では、売り先を確保できることが重要になります。
  • 第4段落: オーナー同士とのつきあいを通じて作られた人的ネットワーク、 ネットワークが磐石で大規模 とあります。親密さと広がりの両方が、業界での優位性を支えていました。

第3段落の 「しかし」 より前は、従来の一次問屋の成功の仕組みです。本問では、この過去の時点に戻り、仕入れた商品を誰に売れるのかを考えます。

人とのつながりを、販路の安定と競争上の強さへ結ぶ ​

継続して取引できる相手が、相場商売の売り先になる ​

相場を見て仕入れても、売りたいときに販売先がなければ商売は成立しません。二次・三次問屋との継続的な関係があれば、その先にいる地域の顧客へ商品を届ける経路を確保できます。 親密な関係を通じた継続取引と安定販売 が、ネットワークの一つ目の価値です。

共栄会や旅行は、この関係を育てる場と捉えます。顔を合わせて信頼を積み重ねることが取引の継続につながるのであって、旅行そのものが競争力なのではありません。また、販売先の安定と相場価格の変動は別であり、関係があるだけで相場リスクがなくなるとは考えません。

積み重ねた関係は、競合がすぐには置き換えられない ​

別の商社が同じ砂糖を扱えても、長年の取引で築いた信頼まで短期間で作れるわけではありません。二次・三次問屋がA社との取引を続けるほど、競合は既存の販路へ入りにくくなります。 模倣しにくい関係資産が参入障壁になる という二つ目の働きです。

ネットワークが大規模なら販売先の広がり、磐石なら関係の強さを説明できます。この二つを合わせることで、単に「人脈がある」よりも、なぜ業界で優位に立てたのかが明確になります。

ネットワークが強みとなった理由を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。

人的関係の良さだけでなく、二次・三次問屋を介して地方の末端顧客へ到達できる販売網としての価値を示す。長期の関係は継続取引と情報交換を支え、競合が同等の網を築く難しさにもつながる。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

中小企業庁「2022年版中小企業白書 第2部第3章第1節」は、サプライチェーンの共存共栄と取引先連携を確認する材料です。公的資料から得る判断軸は、一般論を答案へ貼ることではなく、設問の要求と2010年度の与件事実を対応させることです。

公的資料の判断軸2010年度の与件への当てはめ答案上の注意
連携の目的を経済効果へ結ぶ二次・三次問屋との関係で相場商品の販売数量と販路を安定させる親睦行事の紹介だけで終えない
信頼を情報・調整力へ変える相場・需要・在庫情報を共有し、取引を継続的に調整する個人的な仲の良さを無条件の競争優位としない
模倣困難な関係資産を蓄積する長期の人的ネットワークで競合の参入と取引先切替を難しくする市場環境が変われば強みが陳腐化する点も確認する

類題は、2021年度事例I第4問 は外部協力企業との関係をプロジェクト連携へ発展させる問題、2014年度事例I第1問 は大学・研究機関との共同開発ネットワークを技術創出へ使う問題です。本問は新卒採用ではなく、問屋間の反復取引が販路安定と参入障壁を生む点が中心です。2022年度事例I第3問 は大手取引先との対等な関係構築という相違があります。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:中小企業庁「2022年版中小企業白書 第2部第3章第1節」(サプライチェーンの共存共栄と取引先連携)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2010年度の与件事実を主根拠にします。

設問 2 ​

これまでの事業展開を継続することが困難になった経営環境の変化とは何か。A 社が取り扱う食品原材料という商品特性を踏まえて、100 字以内で説明せよ。

回答例(98 字) ​

砂糖など同質的な素材で顧客の価格志向と小口・頻回配送の要求が強まり、人脈だけでは選ばれにくくなったため。物流を強化した大手商社が中堅メーカーや末端顧客へ直接進出し、従来の商圏が侵食されているため。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、従来の事業展開を難しくした 経営環境の変化 です。食品原材料の 差別化のしにくさ を起点に、顧客要求と競争の変化を100字へまとめます。

与件文から取引の選ばれ方の変化を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第1段落: 砂糖・油・小麦粉などの食品原材料、 常温で保存できる食品原材料 とあります。同様の規格・品質なら供給業者による違いを示しにくく、価格や届け方が選択の基準になりやすい商材です。
  • 第4段落: 顧客の価格志向が強くなり、 配送の頻度や便宜性など先方の細かな要求、 中堅規模の食品メーカー市場にも大手商社が参入、 末端の顧客まで直接攻める とあります。顧客が求める条件と、競合が攻めてくる市場の両方が変化しています。

第4段落の 「さらに」 は価格に加わる配送要求、 「加えて」 は企業間競争へ話を進めます。価格、物流、競合参入は、重なって従来の商売を難しくした要因です。

関係の深さだけでは選ばれなくなる ​

商品で違いを出しにくいと、価格と物流が比較される ​

砂糖や小麦粉を必要とする顧客にとって、同じ条件の商品を入手できるなら、仕入価格や必要なときに届くかが重要になります。そのため、供給する商品自体で差別化しにくい一次問屋は、顧客の価格志向の強まりを受けやすくなります。

同時に、安ければよいだけではありません。配送の頻度や便宜性という要求は、顧客が使う量やタイミングに合わせる機能を求めています。 価格競争と物流サービス要求の高度化 を並べることで、オーナー同士の親密さだけでは対応できない変化が見えます。

大手が従来の取引領域へ入り、流通の競争が変わる ​

大手商社は、それまで中心だった大手食品メーカーだけでなく、中堅市場にも入り、末端顧客へ直接働きかけています。物流を充実させた競合が顧客へ近づけば、A社や取引先の問屋が担ってきた経路を選んでもらうために、より明確な価値が必要になります。

商品特性に、顧客要求の変化と大手の川下進出が重なる と整理します。関係維持型の営業が弱くなったという結論を、顧客側と競合側の具体的な変化から説明する流れです。

商品特性を踏まえた環境変化を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。

価格と配送の利便性を重視する顧客の変化に、大手商社の中堅・末端市場への進出が重なった。従来の人的関係だけでは対応できない理由を、需要側と競争側の二つに分ける。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

中小企業庁「2023年版中小企業白書 第2部第3章第1節」は、企業間取引の価格転嫁・取引条件と競争環境を確認する材料です。公的資料から得る判断軸は、一般論を答案へ貼ることではなく、設問の要求と2010年度の与件事実を対応させることです。

公的資料の判断軸2010年度の与件への当てはめ答案上の注意
商品特性と価格決定力を結ぶ差別化しにくい食品原材料は価格比較され、顧客の価格志向の影響を受けやすい価格競争が激しいという一般論だけで終えない
非価格要求も取引条件として捉える配送頻度・便宜性など末端顧客のサービス要求が高度化する価格だけを環境変化としない
流通段階の変化を見る大手商社が中堅・末端市場へ直接入り、従来の問屋階層を短縮するA社の内部施策ではなく外部の競争構造を答える

類題は、2008年度事例I第2問 は航空会社の価格競争が中間財の機内食へ波及する問題、2007年度事例I第1問 は複数要因から市場の不透明さ・複雑性を説明します。2012年度事例I第1問 は海外進出を促す外部要因を二つに分ける点が共通し、いずれも内部施策と外部変化を混同しません。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:中小企業庁「2023年版中小企業白書 第2部第3章第1節」(企業間取引の価格転嫁・取引条件と競争環境)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2010年度の与件事実を主根拠にします。

第 2 問(配点 30 点) ​

設問文 ​

転廃業を迫られている地方の二次問屋に対して、A 社が積極的に進めている友好的買収に関連して、以下の設問に答えよ。

(設問 1) ​

A 社は友好的買収を積極的に推し進めているが、その目的と効果について 100 字以内で説明せよ。

回答例(100 字) ​

後継者難や機能不足の有力店を救済し、地域の販路と顧客取引を維持するとともに、物流拠点を革新して配送効率と利便性を高めるため。末端顧客の接点と需要情報を直接得て、大手商社への対抗力と販売力を強めるため。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、友好的買収の 目的と効果 です。「何を守り、何を変えたいか」と「その結果、誰にどんな利益があるか」を分け、100字で説明します。

与件文から救済と機能改善のつながりを読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第4段落: 配送の頻度や便宜性など先方の細かな要求、 末端の顧客まで直接攻める とあります。地域の顧客へ対応できる拠点と機能の重要性が高まっています。
  • 第5段落: 後継者問題で廃業に追い込まれたり、 機能不足に陥っている、 物流拠点を革新して効率性を高め、 地元の末端顧客にとっても利益 とあります。救済の必要性と、拠点を引き継いで改善した効果が示されています。

第5段落の 「というのも」 は連携を強める背景、 「結果的に」 は買収後の効果を示します。救済の事情だけで字数を使わず、物流や顧客への利益まで読み進めます。

地域の販路を残し、顧客に応えられる拠点へ変える ​

有力店の廃業は、A社の販売経路も弱める ​

地方有力店はA社の取引先であるとともに、地域の末端顧客へ商品を届ける接点です。後継者難で廃業したり、顧客の変化に対応できなくなったりすれば、A社もその先へ売る経路を失いかねません。 取引先の救済を通じて、地域の販路と物流拠点を確保する ことが買収の目的になります。

既存店の拠点や関係を引き継げば、一から地域の販売基盤を作る場合と比べ、蓄積された資源を使えます。救済は取引先への支援であるだけでなく、自社の供給網を維持する行動でもあります。

引き継いだ拠点の機能を高め、末端顧客へ価値を届ける ​

店を残すだけでは、従来の機能不足は解消しません。A社の物流機能と地域拠点を結び、配送や拠点運営を見直すことで、効率を高めながら細かな要求へ対応する方向が考えられます。与件でも物流拠点の革新と効率向上が示されています。

物流・販路の確保と効率化→顧客対応力の向上 が効果です。大手商社が末端へ進出する中、地域の接点を保ち、実際のサービスを改善することは競争力の強化につながります。大手をすでに上回ったという実績ではなく、競争に対応する意味として説明します。

友好的買収の目的と効果を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。

買収は有力店の廃業による販路喪失を防ぐとともに、物流拠点の革新を可能にする。末端顧客に近い拠点を持つことで直接接点や情報を得られる点は、競争対応上の効果として説明する。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「M&Aの活用法」は、M&Aの目的を明確にし、従業員への説明と相手企業の文化を尊重しながら統合する方法について解説しています。本問では、「買収を目的でなく手段として捉える」と「取得資源と改善能力を組み合わせる」を2010年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2010年度の与件への当てはめ答案上の注意
買収を目的でなく手段として捉える地方有力店の救済を通じて物流・販売の空白地域を補う規模拡大だけを目的にしない
取得資源と改善能力を組み合わせる現地拠点・販路・顧客関係へA社の物流改革を適用するシナジーを抽象語で終えない
受益者と効果を具体化する取引先・末端顧客の配送利便性を高め、大手への対応力を得るA社の売上だけで効果を測らない

類題は、2009年度事例I第2問 は買収へ消極的な理由を問うため、本問の目的・効果とは方向が異なります。2020年度事例I第1問(設問1) は買収時の経営ビジョン、2023年度事例I第3問 は経営統合前の留意点、2023年度事例I第4問(設問1) は統合過程の管理を問います。共通するのは、M&A目的、取得資源、統合リスク、統合後の効果を切り分けることです。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「M&Aの活用法」(M&Aの目的を明確にし、従業員への説明と相手企業の文化を尊重しながら統合する方法)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2010年度の与件事実を主根拠にします。

(設問 2) ​

A 社は友好的買収を進める際、従来の従業員を継続して雇用する方針を取っている。そのメリットとデメリットについて 100 字以内で説明せよ。

回答例(100 字) ​

利点は、同じ条件の継続雇用で不安・反発を抑え協力を得て、顧客関係や業務知識を残し円滑に承継できる点。欠点は、旧慣行が温存され改革が遅れ、A社との処遇差が不公平感を生み、組織の統合を妨げる恐れがある点。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、買収先の従業員を 従来と同じ条件で継続雇用する利点と欠点 です。人とともに残る資源を利点、そのまま残すことで調整が必要になるものを欠点として100字で比較します。

与件文から変える部分と引き継ぐ部分を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第5段落: トップマネジャーこそA社から転籍、 それまでと同じ条件で雇用 とあります。経営を担う人は送り込み、現場の人と雇用条件は引き継ぐ方針です。
  • 第6段落: 伝統的な家族主義的経営、 年功序列型の給与体系 とあります。A社にも固有の人事方針があり、買収先の条件とどう整合させるかが統合上の課題になり得ます。

第5段落の方針は、経営の担い手を変えながら現場の継続性を保つ組み合わせです。第6段落の 「もっとも」 からは、A社自身も生活給の年功を残していることが分かります。引き継いだ条件を単純に成果給へ統一する話ではなく、人を残す意味と組織間の調整を考えます。

人が持つ資源を守りながら、組織の違いを調整する ​

顧客関係と業務の知識を引き継ぎ、事業を止めない ​

地域で仕事をしてきた従業員には、顧客ごとの注文や対応方法、配送などの業務に関する知識が蓄積していると考えられます。その人たちが働き続ければ、買収後も顧客対応を継続しやすくなります。 顧客情報・業務ノウハウと信頼関係の維持 が、雇用を続ける利点です。

同じ条件を保つことは、買収による生活面の不安を抑える助けにもなります。従業員が離れ、知識や顧客接点が失われる事態を避けることで、円滑な事業承継につなげると捉えます。

雇用を守ることと、従来のやり方を残すことを分ける ​

一方、機能不足を抱えた店の仕事の進め方まで変わらなければ、買収で目指す改善が進まないおそれがあります。経営者が交代しても、現場で改善の必要性が共有されなければ、新しい方法が定着しにくくなります。 旧来の業務慣行の温存と改革の遅れ が考えられる欠点です。

また、同じ仕事をしても所属元によって処遇が違えば、不公平感が生じる可能性があります。A社と買収先の具体的な給与差は示されていないため、これは 条件を引き継いだ組織間で起こり得る処遇の調整課題 として説明します。継続雇用の利点を活かすには、知識を残すことと業務・制度を見直すことを分ける視点が必要です。

継続雇用の利点と欠点を100字で答案化する ​

答案の骨格は、同じ条件で雇用を続けて不安・反発を抑え、人が持つ顧客関係と知識を承継する利点と、旧慣行・処遇差が改革や統合を妨げる恐れの対比です。事業継続の資源だけでなく、その資源を持つ従業員の協力を得る作用も入れます。処遇の具体的な差や実際の反発は与件に明示されていないため、欠点は起こり得る問題として説明します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」と経営ハンドブック「事業承継のための準備」は、現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続きと人・モノ・カネ・情報・知的資産を棚卸しし、見えざる経営資源を承継する準備について解説しています。本問では、「承継する人的資源を特定する」と「安心と改革速度を両立する」を2010年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2010年度の与件への当てはめ答案上の注意
承継する人的資源を特定する地域顧客情報と現場ノウハウを持つ従業員を残す雇用維持を善悪だけで評価しない
安心と改革速度を両立する同条件雇用で不安を抑えつつ、業務標準と役割を段階的に統合する旧慣行を無期限に温存しない
グループ内公正を確認するA社と買収先の評価・処遇差を説明し、整合化の工程を示す一律統一で地域特性・既得条件を無視しない

類題は、2009年度事例I第3問 は人員整理を見た買収側社員の雇用不安、2020年度事例I第1問(設問2) は前経営者・ベテランを残す理由、2020年度事例I第4問 はグループ人事制度の公平性を問います。本問は継続雇用方針そのものの長短を対比する点が固有です。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」(現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続き) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「事業承継のための準備」(人・モノ・カネ・情報・知的資産を棚卸しし、見えざる経営資源を承継する準備)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2010年度の与件事実を主根拠にします。

第 3 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

家族主義的経営を掲げる A 社でも、近年の経営環境の変化に伴い、成果主義的要素をわずかに人事制度へ取り入れている。より成果主義的要素を強化した場合の A 社にとってのメリットとデメリットをどのように考えるべきか、100 字以内で述べよ。

回答例(100 字) ​

利点は、成果を処遇に反映し次の中核となる若手の新規開拓・改善意欲を高める点。欠点は、個人競争で家族主義の協力や知識継承が弱まり、商圏差を無視した短期売上評価が不公平感や長期的な顧客関係の軽視を招く点。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、現在より 成果主義的要素を強める場合の利点と欠点 です。成果と報酬の結びつきが、意欲と協働をどう変えるかを100字で考えます。

与件文から現在の処遇と次の担い手を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第1段落: 40~50歳代の社員が少ない、 高齢の社員が退職した後、中心となるのは30歳代 とあります。今後の事業を担う若手の意欲と、世代間の引継ぎが重要になります。
  • 第6段落: 伝統的な家族主義的経営、 月額の生活給部分は年功序列を守り、 ボーナスの部分に成果を反映 とあります。現在は年功を基盤に、賞与へ限って成果を取り入れる形です。

第6段落の 「しかし」 は存続への不安から制度を変えた流れ、 「もっとも」 は変更が賞与部分にとどまることを示します。今ある制度を説明するだけでなく、さらに成果の比重を増やしたときの影響を考えます。

成果へ向かう意欲と、支え合う働き方を両面から見る ​

貢献が処遇へ結びつくと、新しい行動へ動きやすくなる ​

年功の影響が強い処遇では、若手が成果を上げても報酬の差に反映されにくい場合があります。成果を認める比重が高まれば、新規顧客の開拓や顧客への提案など、業績を伸ばす行動へ向かう動機づけになります。 若手の業績向上意欲と組織の新陳代謝 を促す利点です。

30歳代が今後の中心となる人員構成も踏まえ、次の担い手が自ら成果を作る方向へ動く意味を説明します。年齢で意欲を決めつけるのではなく、貢献が評価される仕組みの効果として捉えます。

個人の数字だけを追うと、協働と知識の引継ぎが弱まる ​

自分の売上だけが強く報われると、他の社員を助けたり、顧客情報を共有したりする行動が後回しになるおそれがあります。高齢社員から若手へ経験を引き継ぐ時期に協力が弱まれば、組織として残したい知識も渡りにくくなります。

個人主義の強まりによるチームワークと一体感の低下 が欠点です。家族主義的な経営では、長く支え合ってきた関係も資源でした。成果主義そのものを否定するのではなく、個人成果へ偏ると何が失われるかを説明します。成果だけでなく協力や育成への貢献を認める考え方は、この欠点を抑える際の視点になります。

成果主義を強める利点と欠点を100字で答案化する ​

答案の骨格は、貢献が処遇へ反映され若手の新規開拓・改善意欲が高まる利点と、個人競争や短期成果への偏重がもたらす欠点です。欠点には、協力・知識継承の低下に加え、商圏など本人が変えにくい条件差を無視した評価の不公平、長い顧客関係を育てる活動の軽視を含めます。これらを現在起きている事実とはせず、成果の比重を増した場合のリスクとして示します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」は、理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法について解説しています。本問では、「戦略上望む行動を成果として定める」と「個人成果と組織貢献を併用する」を2010年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2010年度の与件への当てはめ答案上の注意
戦略上望む行動を成果として定める新規開拓・物流改善・若手の責任行動を評価する売上だけを成果としない
個人成果と組織貢献を併用する顧客関係、知識移転、チーム協力、後輩育成も評価する成果主義を個人競争と同義にしない
制度変更の副作用を確認する家族主義的な一体感と相互支援が弱まる可能性を評価する利点だけ、欠点だけの片側答案にしない

類題は、2012年度事例I第5問 は成果主義を設計・導入する留意点を問うため、本問の長短比較より施策寄りです。2007年度事例I第4問(設問1) は能力・貢献と処遇の不一致、2019年度事例I第4問 は目標共有と成果連動賞与が営業行動を変える点が共通します。採用・定着問題とは要求を分けます。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」(理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2010年度の与件事実を主根拠にします。

第 4 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

食品原材料商社である A 社が事業拡大のため、食品原材料以外の商材に手を伸ばすべきか否かについて、中小企業診断士として A 社社長からアドバイスを求められた場合、どのようなアドバイスをするか 100 字以内で述べよ。

回答例(100 字) ​

当面は食品原材料以外へ広げず、世代交代と加工事業の育成に人材・資金を集中すべきである。食品の知見、千軒超の販路、物流網と仕入れルートを活かし、既存顧客の小口需要に応える自社加工を横展開して成長を図る。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、食品原材料以外へ商材を広げるべきかという助言です。 既存資源を活かせる関連性と、資源を分散させるリスク を比べ、判断・理由・代替方向を100字で示します。

与件文から使える資源と成長の方向を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第1段落: 国内11カ所の事業所ネットワーク、 二次問屋が1,000軒を超える とあります。既存の販売・供給基盤を使えるかが、拡大先を選ぶ判断材料になります。
  • 第7段落: 砂糖や小麦粉の仕入れルートの強みを活かして、 10万本程度の少量でも対応、 ニッチな市場 とあります。既存資源と大手が対応しない需要を結んだ展開の例があります。
  • 第8段落: 主力事業として食品原材料供給を中心におく、 食品原材料以外の商材を取り扱っていくことを真剣に検討 とあります。主力を保ちながら成長を探す場面であり、広げる範囲の判断が必要です。

第8段落の 「その一方で」 は、食品を主力とする考えと、別商材を検討する動きの併存を示します。商社だから扱えるという前提から、A社が利益を出して続けられるかへ判断を進めます。

商材の新しさより、今ある力を使えるかを確かめる ​

無関係な分野では、新しい能力をそろえる負担が増える ​

A社には食品の取引経験、既存顧客、仕入れルート、物流の基盤があります。これらが使えない商材へ広がると、商品知識や仕入先、販売先を新たに開拓し、管理方法も整える必要があります。 強みを使えないまま人材・資金・管理能力を分散するリスク が生じます。

そこで、無関係な商材への安易な拡大は避け、まず食品事業を支える資源を活かす方向を勧めます。売上を増やせる可能性だけでなく、新たに必要となる能力や管理負担まで比べる判断です。

自社加工の経験を、関連性を確かめる手掛かりにする ​

第7段落の 「そこに」 は、少量対応や衛生・品質面の需要を事業機会へ結ぶ箇所です。仕入れルートを活かし、大手が対応しない小口需要へ加工を加える展開は、資源と顧客の困り事がつながった例です。

食品原材料以外でも、例えば既存顧客が必要とする包装材なら、顧客接点を使って提案できる可能性があります。ただし、包装材は与件の実施事業ではなく提案例です。需要や取扱条件、採算を確かめてから進める必要があります。 既存の顧客・知識・物流を使える範囲で関連商材を拡充する と考えます。

既存顧客へ新しい商材を売る場合は新製品開発、新しい顧客へ新しい商材を売る場合は多角化です。この分類と資源の関連性は別の軸なので、「食品以外」を一律に非関連多角化とはしません。

商材を広げる判断と助言を100字で答案化する ​

答案の骨格は、当面の非食品参入を見送り、世代交代と加工事業へ限られた資源を集中し、既存販路と仕入れ・物流の強みで小口需要を開拓する、です。見送り案では、何もしないのではなく食品分野で成長を図る具体策を示します。包装材等へ限定参入する別案も考えられますが、この答案では結論を一貫させるため併記しません。食品以外だから必ず強みが使えないとは断定せず、現在の優先課題と経営負担から判断します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「多角化の方法」は、多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面について解説しています。本問では、「共用できる経営資源を確認する」と「関連多角化と非関連多角化を分ける」を2010年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2010年度の与件への当てはめ答案上の注意
共用できる経営資源を確認する食品知識、千軒超の顧客、仕入ルート、物流網、加工能力を使えるかを見る市場が大きいだけで進出しない
関連多角化と非関連多角化を分ける食品加工・包装材など隣接商材は関連性が高く、無関係商材は低い『食品以外』を一括して可否判断しない
シナジーと資源分散を比較する既存販路へのクロスセル効果と、新能力獲得の費用・管理複雑性を比べるシナジーという用語だけで効果を断定しない

類題は、2016年度事例I第1問(設問2) は既存事業との関連性・シナジーと資源分散から多角化を判断し、最も近い類題です。2023年度事例I第4問(設問2) は市場開拓・新製品開発など成長戦略の選択、2008年度事例I第5問 は新市場参入の能力適合を問います。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「多角化の方法」(多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2010年度の与件事実を主根拠にします。

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