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平成 23 年度(2011 年度)事例 Ⅰ 解答解説 ​

この解説で学ぶこと ​

2011年度事例Ⅰは、一般家庭向け医療品から医家向け医療品へ事業を強化するA社を題材に、営業活動や組織・人事の対応を考える問題です。一般消費者向けのブランド訴求と、医療従事者のニーズを把握する提案型営業の違いを与件から読み解きます。

以下の回答例と解説では、問題文の根拠と答案に盛り込む内容を設問別に確認できます。まず自分で解答してから、対象顧客の変化と必要な組織・人事施策が答案の中でつながっているかを見直してください。

目次は画面右上の「On this page」をタップしてください。

第 1 問(配点 40 点) ​

設問文 ​

A 社は、かつて一般家庭向け医療品を中心に事業展開してきた。しかし、近年の経営環境の変化の中で、医家向け医療品分野での事業強化に積極的に取り組んでいる。このことに関連して、以下の設問に答えよ。

設問 1 ​

A 社にとって、かつて主力製品であった一般家庭向け医療品と、近年注力し始めている医家向け医療品では、営業活動にどのような違いが求められるか。120 字以内で説明せよ。

回答例(119 字) ​

一般家庭向けは広告宣伝でブランド認知度を高め、広範な流通網を通じて不特定多数の顧客に販売する。医家向けは医療従事者に対し、専門的な知見に基づき製品の有効性や安全性を直接説明し、現場のニーズを収集・製品開発に反映する提案型営業が求められる。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、一般家庭向けと医家向けで必要な 営業活動の違い です。 顧客への届け方・伝える価値・情報の集め方 を共通の比較軸にし、両市場を120字で説明します。

与件文から顧客との接し方を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第3段落: 一般家庭向け医療品分野で商品ラインアップを充実、 全国市場でその名を知られる とあります。幅広い家庭へ商品を届ける市場を築いてきました。
  • 第7段落: 医療品販売会社の営業担当者に同行、 現場の声の収集、 「安心・安全・安価」で治療効率を高める製品開発 とあります。医家向けでは現場に入り、使い方や課題を理解して製品へ反映しています。
現場の声が製品開発へ戻る流れを見る ​

第7段落の 「こうした」 は、販売会社への同行・情報収集と、新製品の開発を結びます。医家向け営業では売るだけでなく、現場の困り事を知って開発へ渡す役割が重要になると読めます。

広く知ってもらう営業と、現場の課題へ提案する営業 ​

一般家庭向けでは、認知と入手しやすさを広げる ​

家庭で使う医療品は、多数の消費者がそれぞれ選びます。広告宣伝で商品やブランドを知ってもらい、流通業者を通じて身近な売り場で購入できるようにする活動が重要になります。 不特定多数への認知と、広い流通網を通じた販売 という営業の方向です。

これはA社の広告媒体や店舗数を確認した事実ではなく、家庭向け市場に必要な機能を説明したものです。商品の特徴を分かりやすく伝え、選びやすい環境を作ることを中心に置きます。

医家向けでは、専門的な説明と現場からの情報収集を重ねる ​

医療従事者が使う製品では、具体的な処置の中で安全性や使いやすさ、治療効率にどう役立つかを説明する必要があります。営業担当者には、製品や使用場面に関する知識を基に話し、相手が困っていることを聞き取る力が求められます。

販売会社の営業担当者に同行すれば、既存の接点を活かして現場の声に触れられます。その情報を自社の開発へ戻し、改善や新製品を提案する 現場との対話と開発をつなぐ提案型営業 が重要です。医療従事者へ直接説明することを、販売会社を使わない直販への変更とは捉えません。

二つの市場の営業活動を120字で答案化する ​

答案の骨格は、 家庭向け:広告・認知と広範な流通/医家向け:専門的説明+現場ニーズを収集し開発へ反映 です。「一般家庭向けは〜。医家向けは〜。」と対応を明示します。

120字では、片側だけで字数を使い切らず、広く届ける働きと、現場で対話して提案する働きを残します。BtoC・BtoBという分類名だけで終えず、営業担当者の行動がどう変わるかを示しましょう。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

経済産業省の研究会資料は、医療現場のニーズを把握して整理し、企業が試作と確認を重ねる連携過程を紹介しています。公的資料から得る判断軸は、医家向け営業を販売活動だけでなく、現場ニーズを開発へ橋渡しする活動として捉えることです。

公的資料の判断軸2011年度の与件への当てはめ答案上の注意
顧客ごとに購買判断と必要情報を分ける家庭向けには広く安心・安全・価格を伝え、医家向けには治療現場の課題へ専門提案する「BtoCとBtoBで違う」だけで終わらず、営業行動の違いを書く
現場ニーズを具体化する販売会社の営業担当者に同行し、医療現場の声を直接収集する顧客の要望をそのまま受けるのではなく、治療効率など解決課題へ整理する
営業情報を開発へ還流する現場の声から極薄型絆創膏や消毒薬付き綿棒を開発する情報収集の目的を高付加価値製品と競争優位へ結び付ける

類題は、2020年度事例I第3問(直販導入に伴い顧客課題を聞き提案する営業能力を高める論点)、2019年度事例I第3問(顧客接点を情報収集と市場開拓へ使う論点)、2025年度事例I第2問(複数の接点から顧客理解と関係を作る論点)です。共通するのは、顧客接点で得た情報を価値提案へ変えることです。

出典:経済産業省「新規事業創出のための目利き・支援人材育成等事業 研究会資料」(医療現場ニーズの把握と企業による試作・開発の連携)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2011年度の与件事実を主根拠にします。

設問 2 ​

近年、A 社が医家向け市場に注力しているのはなぜか。その理由を、120 字以内で説明せよ。

回答例(119 字) ​

理由は、主力の一般家庭向け市場では競合参入で価格競争が激化し、収益性が低下したためである。一方、医家向け市場では絆創膏製造技術を応用し、医療現場のニーズに応える高付加価値製品を開発・供給して価格競争を避け、安定収益と持続的成長を見込める。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、医家向け市場に力を入れる理由です。 従来市場の競争激化と、技術を活かした高付加価値化の機会 をつなぎ、120字で説明します。

与件文から市場を広げる背景と使える強みを読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第5段落: 競合企業がA社の主力市場に参入、 差別化競争や価格競争が激化 とあります。従来の市場で同じ製品を売り続けることが難しくなった背景です。
  • 第7段落: 主力商品の絆創膏製造で培った技術を応用、 より付加価値の高い商品、 医療現場のニーズ把握、 治療効率を高める製品開発 とあります。既存の技術を使い、医療現場での価値を高める方向へ展開しています。
既存市場での苦境から、価値のある新しい使い先へ ​

第5段落の 「しかし」 は、再建が進みかけても競合参入で再び不振に陥った流れを示します。第7段落の 「こうした」 は、現場に密着した活動が高付加価値製品へ結びついたことを示します。競争を避けたいという事情だけでなく、A社がそこで価値を作れる理由を考えます。

既存技術を、新しい顧客の困り事へ使う ​

同じ土俵での価格競争から、選ばれる理由を変える ​

主力市場に競合が入り、差別化・価格競争が激しくなると、従来の知名度や品ぞろえだけでは収益を守りにくくなります。そこで、既存技術を使いながら、価格以外の価値で選んでもらえる製品・市場を探す必要があります。

医療現場には、処置のしやすさや衛生面、準備の手間など具体的な課題があります。例えば、使い捨ての消毒薬付き綿棒は、医療現場の作業と結びつけて価値を考えられます。 顧客の作業に役立つ価値を作ること が、単純な価格比較から距離を取る方向になります。

新規分野でも、培った技術を活かせる ​

医家向けへの展開は、経験のない仕事に無関係な投資を広げる話とは異なります。A社は絆創膏の製造で蓄積した技術を応用し、販売会社と一緒に現場の要望を確かめています。技術とニーズの両方をつかめるため、独自性のある製品へ育てやすいと考えられます。

既存技術+現場ニーズ→高付加価値製品→価格競争の回避・収益確保 という理由です。医家向けなら自動的に高利益になるのではなく、要求に合う製品を作り、価値を理解してもらうことが前提になります。

医家向け市場に注力する理由を120字で答案化する ​

答案の骨格は、 家庭向けの競争激化→絆創膏技術を医療ニーズへ応用→高付加価値化・差別化→収益と持続的成長 です。背景を先に置き、その状況に対してどの強みをどこへ使うかを肉付けします。

120字では、市場を変える必要性と、A社が価値を提供できる根拠を残します。営業方法を比較する設問1とは分け、ここではなぜその市場を重視するかを説明しましょう。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりについて解説しています。本問では、「既存市場の脅威を特定する」と「転用可能な強みを確認する」を2011年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2011年度の与件への当てはめ答案上の注意
既存市場の脅威を特定する家庭向け医療品で競合参入・価格競争が激しく収益性が低下する既存市場が古いという一般論にしない
転用可能な強みを確認する絆創膏製造技術と現場密着のニーズ把握を医家向けへ応用する技術を持つだけで顧客価値になると考えない
標的市場で得る効果を示す治療効率を高める高付加価値製品で価格競争を避け安定収益を得る医家向けだから高収益と無条件に断定しない

類題は、2008年度事例I第5問 は新市場参入の成否を能力ギャップで判断し、2016年度事例I第1問(設問2) は強みとの関連性から多角化を評価します。本問は既存市場の脅威と技術・市場情報の強みを結ぶ点が固有です。2023年度事例I第2問 は差別化集中戦略で競争範囲を絞る点が共通します。 共通する判断軸を再利用しつつ、相違する設問要求を混同しません。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2011年度の与件事実を主根拠にします。

第 2 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

厳しい競争下にある医療品業界では、新商品や新規技術の開発が極めて重要である。しかし、A 社では自社開発技術の特許をあえて出願しない場合もある。その理由として考えられることを、100 字以内で説明せよ。

回答例(97 字) ​

特許出願による技術公開が模倣を招き、出願維持や侵害対応の費用・時間が技術の寿命に見合わない場合があるため。解析されにくい製造ノウハウは秘匿・管理し、解明や類似技術開発を困難にして競争優位を守る。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、開発した技術について 特許をあえて出願しない場合の理由 です。 公開して権利を得ることと、ノウハウを秘匿して守ること を比較し、100字で説明します。

与件文から守るべき技術の価値を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第5段落: 差別化競争や価格競争が激化 とあります。競争の中で、他社と異なる価値を維持する必要があります。
  • 第7段落: 絆創膏製造で培った技術を応用、 極薄型の絆創膏 とあります。蓄積した技術が、独自の製品を生み出す土台になっています。
  • 第9段落: 成功に安住して「ゆでガエル」化する状況を回避 とあります。現在の優位を守るだけでなく、開発と革新を続ける必要があります。
本問は、与件に知財の判断軸を重ねる ​

第9段落の 「しかし」 は、成長に安住せず革新を続ける課題を示します。製造技術が差別化を支えるA社では、開発するだけでなく、その知識をどう守るかも重要です。非出願の対象技術の詳細は与件にないため、ここでは秘匿が有効になる条件を考えます。

技術の中身を知らせないことで、追随しにくくする ​

権利化の利点と、技術公開の影響を比べる ​

特許は技術を公開する仕組みと結びついています。権利を取得して保護する利点がある一方、公開された情報は、競合が仕組みを理解し、周辺技術や別の方法を検討する手掛かりにもなります。出願すれば必ず模倣されるのではなく、 公開によって技術の中身が知られる影響 を比較します。

製品を見ただけでは分かりにくい製造条件や工程上の工夫なら、その情報を営業秘密として適切に管理する選択も考えられます。特許庁も、技術内容の公開を避けて製造ノウハウを秘匿する戦略と、そのための秘密管理を説明しています。特許庁「知的財産権制度入門」

秘匿できる条件を保ってこそ、非出願が意味を持つ ​

製造ノウハウをブラックボックス化する とは、製品の機能を示して販売しても、その機能を実現する製造の核心は外部から分かりにくくする考え方です。公開による解明や類似技術開発の手掛かりを減らし、自社の強みを長く活かす狙いがあります。

ただし、出願しないだけで独占権や優位が得られるわけではありません。製品から容易に解析される技術では秘匿の効果が弱く、情報の管理も必要です。本問はすべての技術で出願を避ける理由ではなく、解明しにくい製造ノウハウを秘密として管理できる場合の選択として説明します。

特許をあえて出願しない理由を100字で答案化する ​

答案の骨格は、技術公開の影響と権利化の費用対効果を比べ、秘匿できるノウハウを管理して競争優位を守る、です。出願・維持や侵害対応には費用と時間がかかるため、技術の利用期間や企業資源に見合うかも判断材料になります。A社で実際に費用負担が生じたと断定せず、非出願が合理的になり得る条件として説明します。秘匿によって自動的に優位を得られるわけではなく、解析されにくさと秘密管理を前提にします。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

経済産業省「営業秘密」は、秘密情報の管理や営業秘密侵害への対策に関する指針・資料を公開しています。公的資料から得る判断軸は、特許と営業秘密を優劣で決めず、技術の解析可能性、利用期間、公開の影響、秘密管理の実行可能性で選ぶことです。

公的資料の判断軸2011年度の与件への当てはめ答案上の注意
特許は公開と引換えに排他権を得る出願すれば自社技術の内容が公開され、競合へ開発の手掛かりを与える可能性がある「特許を取ると必ず模倣される」と断定せず、公開リスクを書く
営業秘密は秘密管理を前提に秘匿する製品から解析しにくい製造ノウハウをブラックボックス化する独立開発を排除できないこと、漏えいすれば優位を失うことも確認する
技術特性で保護方法を選ぶ長期利用でき、社内で管理可能な工程ノウハウなら秘匿の利点が大きい設問の「あえて出願しない理由」は公開回避と競争優位維持へ絞る

類題は、2014年度事例I第1問(大学・研究機関との共同開発で外部知識を事業化する論点)、2021年度事例I第4問(外部企業との連携を発展させつつ情報と役割を管理する論点)、2013年度事例I第4問(顧客情報を開発へ結び付ける際の組織的な情報管理の論点)です。直接同じ知財選択を問う問題ではありませんが、共通するのは外部連携と競争優位の境界を設計することです。

出典:経済産業省「営業秘密」(営業秘密管理指針、秘密情報の保護)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2011年度の与件事実を主根拠にします。

第 3 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社は中小企業には珍しく、創業家一族による同族企業ではなく、仕入れ先や社員持株会などが主な出資者である。このような所有と経営の分離のプラス面とマイナス面の両面について、120 字以内で述べよ。

回答例(118 字) ​

プラス面は、血縁によらず能力本位で経営者を登用し改革を進め、複数出資者の監視で独断や過剰投資を抑えられる点。マイナス面は、仕入れ先や社員持株会等の利害調整が長期的な判断を妨げ、出資者都合の経営者選任や経営責任の曖昧化を招く恐れがある点。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、 所有と経営の分離のプラス面・マイナス面 です。「誰を経営者に選べるか」と「誰の利害で判断が動くか」を軸に、両面を120字で説明します。

与件文から所有者と経営者の変化を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第2段落: 創業家一族は社長でも大株主でもない、 営業部門の管理職に就いた とあります。創業家以外の、社内で事業経験を積んだ人が経営を担っています。
  • 第5段落: 複数の仕入れ先に経営権を譲渡、 創業家一族による支配体制は終焉 とあります。出資・支配のあり方が一族中心から変化しています。
  • 第6段落: 仕入れ先から送り込まれた役員や社長の下では経営再建はほとんど進まず、 営業最前線にいた現社長が全権を持って事業運営 とあります。出資者側の役員を迎えることと、実際の再建を進める能力があることは同じではありません。
出資者が変わるだけでは、経営は改善しない ​

第6段落の 「しかし」 は、一族支配が終わっても、仕入れ先側の経営者の下で再建が進まなかったことを示します。その後、営業現場を知る現社長が事業運営を担います。誰が所有するかと、誰が経営能力を発揮するかを分けて捉える箇所です。

能力で選ぶ自由と、出資者の利害を調整する難しさ ​

プラス面:血縁や持株だけによらず経営を任せられる ​

創業家が所有と経営を一体で担う場合に比べ、株式を多く持つ一族であること以外の基準で経営者を選びやすくなります。営業・工場の経験を持ち、顧客や事業を理解する人材へ権限を委ねられることは、経営改革を進める利点になります。

能力本位の登用と、企業全体の将来を見た改革 が可能になる点です。所有と経営を分ければ必ず改革が成功するわけではなく、経営に適した人を選ぶ余地が広がると説明します。そのうえで、経営者をどう選び、監督するかというガバナンスが重要になります。

マイナス面:多様な株主の意向と全社利益が一致しないことがある ​

仕入れ先と社員持株会では、取引や雇用、投資などについて重視することが異なる場合があります。特定の出資者の都合が優先されれば、A社全体に必要な改革が進みにくくなるおそれがあります。株主間の調整や経営者への監督が適切に働くかも重要です。

多様な出資者の利害調整が、長期的な意思決定を難しくする可能性 がマイナス面です。過去の再建停滞は注意を向ける手掛かりですが、仕入れ先役員が具体的にどの判断を妨げたかは与件にありません。実際の対立を創作せず、起こりうる問題として説明します。

所有と経営の分離の両面を120字で答案化する ​

答案の骨格は、能力本位の登用と複数出資者による監督をプラス面、多様な利害の調整と経営者選任・責任の問題をマイナス面として対比する形です。監督が機能すれば独断や過剰投資を抑えられる一方、特定出資者の都合が優先されると全社の長期的判断が難しくなります。A社で過剰投資や責任の曖昧化が実際に起きたとはせず、仕組みがもたらし得る利点・リスクとして述べます。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

中小企業庁「2023年版中小企業白書 第2部第1章第3節」は、経営の透明性や意思決定を支えるガバナンスと、所有と経営の関係を考える材料を示しています。公的資料から得る判断軸は、所有と経営の分離を無条件に評価せず、監督の実効性と経営者の裁量を両立できるかです。

公的資料の判断軸2011年度の与件への当てはめ答案上の注意
能力・実績に基づき経営者を選べる工場・営業・管理職を経験した現社長を能力本位で登用し改革を進める同族経営を一律に否定せず、A社での登用効果を書く
経営者を監督しつつ裁量を確保する経営計画と報告・決定ルールを設け、全権集中を適切に統制する監督を強めすぎて意思決定を遅らせる副作用も確認する
多様な株主の利害を調整する仕入先や社員持株会などの利害を全社の長期目標へそろえる「株主が多いから悪い」ではなく、利害対立が意思決定へ及ぼす影響を書く

類題は、2020年度事例I第1問(設問1)(買収後の事業構想と統制を両立する論点)、2022年度事例I第4問(設問2)(後継者への段階的な権限委譲と監督を設計する論点)、2019年度事例I第4問(戦略実行へ組織と統制を適合させる論点)です。共通するのは、経営者の裁量と組織的な牽制のバランスです。

出典:中小企業庁「2023年版中小企業白書 第2部第1章第3節」(ガバナンスと経営の透明性)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2011年度の与件事実を主根拠にします。

第 4 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

同業他社に比べ業績が良く、待遇も大手企業と遜色のない A 社は、3 年以内に売上高 40 億円達成を目標としている。その実現のため、どのような組織管理上の施策を講じるべきか、中小企業診断士としてアドバイスを求められた。120 字以内で説明せよ。

回答例(116 字) ​

成功への安住を防ぐ将来課題と成長目標を部門・個人で共有し、権限委譲と部門横断の新商品・市場開拓活動で主体的な挑戦を促す。提案や試行からの学習を評価し、若手に新規事業や海外展開の実務を経験させ、指導と振り返りで次代の管理者を育成する。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、3年以内に売上40億円を目指すための 組織管理上の施策 です。 事業ごとの責任権限と、挑戦を続ける評価・幹部育成 を組み合わせ、120字で助言します。

与件文から成長を担う組織への課題を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第2段落: 海外市場の開拓にも積極的に取り組み始めている とあります。国内だけでなく、法や規制の異なる市場への対応も広がります。
  • 第6段落: 現社長が全権を持って事業運営 とあります。現社長の強い主導で改革を進めてきた背景があります。
  • 第8段落: 化粧品事業や健康食品事業に参入、 地元の大学や研究機関、流通業者と提携 とあります。複数事業と社外連携を同時に運営する必要が増しています。
  • 第9段落: 成功に安住して「ゆでガエル」化する状況を回避、 チャレンジ精神を維持 とあります。好業績のもとでも、次の成長へ挑戦を続けることが課題です。
好業績の維持だけでなく、安住を防ぐ ​

第9段落の 「しかし」 は、一定の成長の後にも足踏みは許されないことを示します。待遇も大手と遜色ないという設問条件を踏まえると、賃金を上げるだけでなく、責任ある仕事に挑み、能力を伸ばせる組織を考える必要があります。

事業を任せる仕組みと、任せられる人材を同時につくる ​

広がる事業の判断を、社長一人に集めない ​

医療品、化粧品、健康食品では顧客や連携先が異なり、海外では法や規制への対応も加わります。社長があらゆる判断を抱えると、事業が広がるほど対応が遅れ、次の責任者も育ちにくくなります。事業部制組織を導入する方向で、責任者へ事業運営の権限と成果責任を明確に委ねる方法が考えられます。

事業ごとに判断できる責任者を置き、本社は全社の方向と資源配分を調整する という分担です。商品別の事業と海外という地域は重なりうるので、実際の区分は顧客・規模・連携関係に合わせます。技術やノウハウの共有も保ち、部門間の壁を作るだけにしません。

挑戦を評価し、次世代幹部へ経験を積ませる ​

既存の売上を守ることだけが評価されると、新しい市場や製品への挑戦は後回しになりかねません。成果に加え、現場情報の収集、連携先との検討、試行から学んだ改善など、挑戦の過程も評価する仕組みが考えられます。

こうした事業やプロジェクトに幹部候補を配置し、段階的に責任を広げて育成・登用します。 権限委譲で経験を与え、評価で挑戦を支え、次の経営人材を育てる ことが、安住を防ぐ文化と持続的成長につながります。

成長目標を支える組織管理施策を120字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。

成長の実績に安住するリスクを出発点に、将来課題の共有と挑戦機会を結ぶ。短期成果だけでなく試行・学習を評価し、若手が新規事業・海外展開を経験して管理能力を身に付ける仕組みを説明する。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」は、商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点について解説しています。本問では、「職能専門性を優先するなら機能別組織」と「事業別の速度と成果責任を優先するなら事業部制」を2011年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2011年度の与件への当てはめ答案上の注意
職能専門性を優先するなら機能別組織単一事業中心なら開発・生産・営業の専門性を集約できるA社は事業が多様化しているため、現行の利点だけで選ばない
事業別の速度と成果責任を優先するなら事業部制医療品・化粧品・健康食品等の責任者へ権限と利益責任を委譲する事業部制の名称だけでなく、社長依存解消と次世代幹部育成へつなぐ
全社最適を別に統制する共通技術、人材、資金を全社方針で配分し、部門間連携を促す機能重複と事業部最適という副作用への手当ても書く

類題は、2025年度事例I第3問(機能別組織・事業部制・プロジェクトチームから恒常的な組織形態を選ぶ論点)、2022年度事例I第4問(設問1)(事業展開に合わせて組織構造と役割を設計する論点)、2016年度事例I第2問(設問2)(機能別組織の縦割りを越え、事業間で人材を流動化する論点)です。共通するのは、戦略、権限、成果責任、部門間調整から組織を選ぶことです。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」(商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2011年度の与件事実を主根拠にします。

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