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平成 24 年度(2012 年度)事例 Ⅰ 解答解説
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
A 社のような中小企業が近年、海外での事業活動に積極的に取り組むようになっている。A 社のような企業の場合、どのような外部環境の変化が海外進出を促していると考えられるか。
その要因を 2 つあげ、それぞれ 40 字以内で簡潔に述べよ.
回答例(39,39 字)
【要因1】主要取引先の海外生産強化に伴い、部品供給企業にも海外進出を強く求められたため。 【要因2】東南アジア諸国の経済成長により、現地の自動車部品需要と市場機会が拡大したため。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、A社のような企業の海外進出を促す 外部環境の変化を二つ です。 取引先の海外生産強化と、進出先市場の成長 を分け、それぞれ40字以内で答えます。
与件文から海外進出を促す二つの変化を読む
与件文のどこを見るか
- 第2段落: 経済成長著しい東南アジアのS国、 X社がすでに生産を開始しているT国 とあります。進出先の成長と、取引先の海外での事業展開が同時に進んでいます。
- 第7段落: 自動車メーカーのグローバル化、 海外生産体制の強化を迫られたY社、 経済的支援を前提とした海外進出の打診 とあります。取引先の海外展開が、A社のような供給企業にも進出を求める動きにつながっています。
国内の取引関係が、海外へ広がっている
第2段落の 「さらに」 は、S国に続き、X社が既に生産するT国へも工場を広げる動きを示します。A社単独の工場建設計画ではなく、顧客の生産拠点が海外へ移る変化に注目します。
取引先についていく必要性と、新たな市場の魅力を分ける
主要顧客の海外生産を支える必要性
自動車メーカーが海外生産を強めると、その部品メーカーも現地での供給体制を整える必要があります。さらに、部品の表面加工を担うA社のような企業にも、海外で同じ品質の加工を提供してほしいという要請が及びます。
顧客のグローバル化→部品供給企業への海外進出要請 という連鎖です。顧客が海外へ展開しても取引を支え続けるために、A社も拠点を広げる必要が生じたと考えます。
経済成長が現地の需要と取引機会を広げる
もう一つは、東南アジアの経済成長です。現地での生産や市場が広がることは、自動車部品や加工処理の需要機会につながります。顧客から要請されるという側面に加え、 成長する海外市場で事業を広げられる機会 が進出を後押しすると捉えます。
二つの欄をどちらも「X社から誘われた」とすると、同じ要因の言い換えになります。取引先の動きと市場の成長という異なる変化を残し、リスク分散や設備投資などA社自身の目的・行動と区別します。
海外進出を促す二要因を各40字で答案化する
答案の骨格は、 要因1:取引先の海外生産強化→供給企業にも進出要請/要因2:東南アジアの成長→現地需要・市場機会の拡大 です。それぞれに変化の主体と、進出を促す意味を入れます。
各40字では、国名や勧誘の経緯を詳しく書くより、何が変化し、なぜ海外で事業を行う必要・魅力が増したかを残します。二要因は別欄として簡潔にまとめましょう。
公的資料から持ち帰る知識と類題
中小企業庁「2024年版中小企業白書 第1部第3章第8節」は、中小企業の海外展開について、市場獲得や取引関係などの目的と実施状況を整理しています。公的資料から得る判断軸は、海外進出を社内の意欲で説明せず、顧客の国際化と東南アジア市場の経済成長という二つの外部変化へ分解することです。
| 公的資料の判断軸 | 2012年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 取引先の国際化に伴う追随 | 主要取引先X社の海外生産と強い進出要請に応じ、取引を維持する | 「社長が海外志向だから」ではなく、顧客行動の変化を書く |
| 成長市場の需要獲得 | 自動車メーカーのグローバル化と東南アジア市場の成長を機会と捉える | 市場成長と顧客追随を同じ要因にまとめず、二つに分ける |
| 外部変化と企業目的の区別 | 顧客の国際化と市場成長を進出の外圧・機会として捉える | 企業側のリスク低減目的を外部環境へ置き換えない |
類題は、2014年度事例I第1問(研究開発型企業の増加を促す外部環境を整理する論点)、2017年度事例I第4問(全国市場への展開時に外部リスクを見極める論点)、2023年度事例I第4問(設問2)(市場機会と自社資源から成長戦略を選ぶ論点)です。共通するのは、外部環境と内部資源を分け、戦略を促す要因を特定することです。
出典:中小企業庁「2024年版中小企業白書 第1部第3章第8節」(中小企業の海外展開)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2012年度の与件事実を主根拠にします。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、Y 社の要請による海外進出を実現していないが、X 社の要請に応じて、2002 年に東南アジアの新興国 S 国に初めて生産拠点を設けている。
Y 社の要請による A 社の海外進出が実現しなかったのはなぜか。X 社の状況を考慮に入れて、考えられる理由を 100 字以内で答えよ.
回答例(98 字)
既に依存度が高いY社と海外進出すると顧客集中が一層進み、資金支援だけでは品質保証の移転や人材管理の負担も解消しないため。X社の支援による進出は新たな取引拡大と依存分散につながり、意義が大きかった。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、Y社の要請では進出せず、後のX社の勧誘では実現した理由です。 失敗した場合の影響と、品質保証を実行する能力 を比較し、100字で説明します。
与件文からY社との関係と進出時点の違いを読む
与件文のどこを見るか
- 第4段落: 自動車のトランスミッションやブレーキなど、重要保安部品 とあります。Y社主導で築いた事業には、人命に関わる品質を求められる製品が含まれます。
- 第5段落: Y社関連の取引額が最も大きく、現在でも依存度が高い とあります。Y社との取引を失う影響はA社全体に大きく及ぶと考えられます。
- 第7段落: 経済的支援を前提とした海外進出の打診、 国内工場の技術革新に邁進 とあります。Y社の要請にも支援はあり、その後は国内の技術を高めています。
- 第8段落: X社の強い勧誘と経済的支援、 自動化システムや検品ノウハウを導入 とあります。後のX社案件では、蓄積した技術・ノウハウを持ち込んで海外品質保証に取り組んでいます。
支援の有無ではなく、その後の蓄積を見る
第7段落の 「そのため」 は、進出が実現しなかった後、国内工場の技術革新へ力を注いだ流れを示します。Y社にも経済的支援の申し出があったので、X社だけが資金を出したという比較はできません。二つの時点の間に、品質を支える技術・ノウハウが蓄積されたことを考えます。
高い依存度と品質責任に対し、海外で再現できる力を見極める
Y社向けの不具合は、経営全体に響くおそれがある
Y社と連携して築いた重要保安部品の事業では、不具合が安全に関わります。その品質を海外でも保証できなければ、個別の受注損失にとどまらず、取引先からの信頼を損なうおそれがあります。Y社への依存度も高いため、主要取引の喪失はA社の経営を大きく揺るがします。
品質不良が起きた場合の影響が大きい一方、海外で同じ品質を確保する見通しが十分ではなかった ため、慎重になったと考えられます。依存が高いことは進出要請を強める面もありますが、失敗の損失も大きくするという両面があります。
技術蓄積を経て、X社案件で海外品質保証へ挑戦する
進出を見送った後、国内工場で技術革新を重ねています。後のX社の強い勧誘と支援を受けた時には、自動化や検品のノウハウを海外へ移し、品質保証に取り組む基盤が整ってきたと読めます。
第8段落の 「とはいえ」 は、その後も現地の品質安定が容易ではなかったと示します。したがって、完全にリスクが消えたのでも、X社の要求品質が低かったのでもありません。蓄積した能力を使って挑戦できる段階へ進んだという比較です。
Y社の要請では進出が実現しなかった理由を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。
Y社への依存が高いという現状から、同社と海外へ進むと取引集中が一層強まる懸念を説明する。品質保証体制の移転負担と、X社を通じた取引分散の可能性を対比して理由をまとめる。
公的資料から持ち帰る知識と類題
中小企業庁「2025年版中小企業白書 第1部第1章第2節」は、海外展開を市場選定、現地適合、事業モデル検証、人材・資金・知財・貿易リスクへの支援を含む段階的な取組として整理しています。公的資料から得る判断軸は、海外進出の可否を勢いで決めず、案件の損失影響と、進出時点の能力・顧客要請を比較することです。
| 公的資料の判断軸 | 2012年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 製品と顧客ごとの失敗影響を評価する | Y社向けは重要保安部品かつ取引依存度が高く、品質事故の影響が大きい | 「海外は危険」という一般論ではなく、Y社案件固有のリスクを書く |
| 能力蓄積と顧客要請の時点を確認する | Y社打診後に国内技術革新を重ね、X社の強い勧誘で初の海外工場へ進む | 経済的支援は双方にあるため、案件差として書かない |
| 小さく検証し能力を蓄積する | 比較的管理可能な加工から品質管理と現地運営のノウハウを蓄積する | 後知恵で成功を断定せず、当時の実行可能性を比較する |
類題は、2008年度事例I第5問(新規市場参入の成否を自社能力と市場要求の適合で判断する論点)、2017年度事例I第4問(市場拡大に伴う品質・組織・ブランドのリスクを見極める論点)、2014年度事例I第2問(技術があっても事業化条件が不足すれば主力化しない論点)です。共通するのは、機会の魅力だけでなく、失敗影響と実行条件を比較することです。
出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第1部第1章第2節」(海外展開の段階的支援とリスク対応)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2012年度の与件事実を主根拠にします。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
日本国内で重要保安部品を自動車部品メーカーに供給している A 社では、表面加工処理の自動化システムなどを開発し、品質の確保を図ってきた。しかし、東南アジアの中でも労働者がまじめで勤勉だといわれる S 国の工場に、品質保証のためのシステムを導入したにもかかわらず、X 社向け表面加工処理が主である S 国の工場を日本の工場の品質保証レベルにまで引き上げるにはかなりの時間がかかった。
それには、どのような理由が考えられるか。120 字以内で答えよ.
回答例(110 字)
自動化システム等の形式知は導入できても、異常の予兆を捉え工程を改善する暗黙知は経験を重ねて定着する。さらに言語・文化・経験差に応じた現地教育と日本側との情報共有、熟練者による反復指導、品質文化の醸成にも時間を要したため。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、システムを導入しても、海外工場が国内並みの品質保証へ到達するまで時間がかかった理由です。 移せる設備・手順と、経験を通じて育つ判断力・品質文化 を分け、120字で説明します。
与件文から設備以外に品質を支えるものを読む
与件文のどこを見るか
- 第6段落: 長年蓄積してきたデータ、 現場での継続的なプロセス改善、 製品の異常を迅速に発見・対処する意識・能力 とあります。国内品質は設備に加え、経験・判断・改善行動に支えられています。
- 第8段落: 自動化システムや検品ノウハウを導入、 海外工場での品質の安定的維持・確保は容易ではなかった、 現地技術者の日本国内での教育 とあります。仕組みを持ち込むだけでは足りず、人材が実際に習得する過程も必要です。
- 第9段落: 部門間や従業員同士の情報共有、 意識改革やシステム改善 とあります。国内でも全社で品質を守る行動を繰り返し働きかけています。
システム完備と、品質保証を同じにしない
第6段落の 「もちろん」 は、自動化の効果に加えて現場での改善や異常対応も必要だと示します。第8段落の 「とはいえ」 は、まさにそれが海外では簡単に再現できなかったことを示します。勤勉に働くことと、A社固有の工程を見極める経験を持つことは別です。
手順を知ることから、変化に気づいて動けることへ進む
異常の予兆や改善の判断は、実践の中で身につく
気温や湿度、処理する製品数が変わる環境で品質を保つには、普段と違う兆候を見つけ、どの工程を確かめるかを判断する力が必要です。手順を示しても、経験の少ない人が直ちに微妙な違いや適切な対処を判断できるとは限りません。
こうした 異常察知・対処や工程改善に関する暗黙知 は、熟練者の指導と実際の経験を重ねて身につける部分があります。システムという形式知を導入する速さと、人材が使いこなす速さには差があると説明します。
気づきを共有し、品質を優先する行動を定着させる
一人が気づいても、関係する部門や上司へ伝わらず対処されなければ、品質は守れません。異常を早く共有し、原因を確かめ、次の改善へ戻す行動を、工場全体の当たり前にする必要があります。国内でも目標・達成度の掲示や社長の働きかけを続けているのは、この基盤が設備だけでは作れないからです。
部門間の連携と品質を最優先する組織文化の定着 にも時間を要したと考えられます。国籍による能力や意欲の違いを原因にせず、A社の品質を支える経験と共通の行動を、新しい組織に育てる難しさとしてまとめます。
海外の品質保証水準向上に時間を要した理由を120字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
自動化システムや検品手順は形式知として導入できますが、異常の微細な兆候を発見し、原因を確かめて工程を改善する判断は経験に依存します。さらに、気づきを部門間で共有し、品質を最優先して改善する行動を工場全体の文化にする必要があります。仕組みの導入と人・組織への定着には時間差があります。 現地への移転では、言語・文化・経験差に合わせた教育、日本側との情報共有、熟練者の反復指導が必要になると考えられます。これらは品質水準の引上げに時間を要した理由として推論し、与件に明示された事実とは区別します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」と経営ハンドブック「業務プロセスの見直しによる生産性向上」は、現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続きと業務の見える化、前提の見直し、人材の流動化、PDCAで生産性を高める方法について解説しています。本問では、「標準化できる知識と経験依存の技能を分ける」と「OJTと改善活動で技能を定着させる」を2012年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2012年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 標準化できる知識と経験依存の技能を分ける | 自動化システムと蓄積データは移せても、異常の兆候を読む判断は経験を要する | システムの性能不足だけを理由にしない |
| OJTと改善活動で技能を定着させる | 日本側との共同作業、異常対応、原因分析を反復して現地能力を育てる | 「研修する」だけでなく、何を学習するかを書く |
| 情報共有を組織文化へ変える | 部門間で不具合情報と改善結果を共有し、標準を更新する | 勤勉さや国民性の一般論を答案根拠にしない |
類題は、2014年度事例I第4問(設備導入後の良品率を現場改善と学習で高める論点)、2020年度事例I第2問(属人的な仕事を可視化・標準化し、利用者と改善する論点)、2008年度事例I第4問(SWSを標準作業と多能工育成によって機能させる論点)です。共通するのは、仕組みの導入と組織学習を分けて考えることです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」(現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続き) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「業務プロセスの見直しによる生産性向上」(業務の見える化、前提の見直し、人材の流動化、PDCAで生産性を高める方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2012年度の与件事実を主根拠にします。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
A 社では、生産現場管理に精通し管理能力に長けた係長クラスの人材を海外生産拠点の工場長として送り込んでいる。現地工場の運営管理以外に、係長クラスの人材にどのような役割を期待し、どのような能力を向上させるべきかについて、中小企業診断士として、A 社の社長に 100 字以内で助言せよ.
回答例(100 字)
本社の方針・技術を現地へ伝え現地情報を還元する橋渡し役として、異文化間の意思疎通力を磨く。現地の後継管理者を育てる指導・動機付け能力を高め、次の海外拠点も担える財務・営業等の経営管理能力を身に付ける。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、派遣した係長クラスの人材に期待する 現地工場の運営管理以外の役割と、伸ばすべき能力 です。 拠点経営・現地幹部育成という役割→経営管理・異文化リーダーシップという能力 を対応させ、100字で助言します。
与件文から現在の強みと次に担う役割を読む
与件文のどこを見るか
- 第2段落: T国でも、工場稼働に向けた準備 とあります。海外拠点を広げる中、一人の現場能力に依存せず人を育てる必要が増します。
- 第8段落: 技術畑出身で現場に精通する係長クラスの人材、 月に一度は役員が現地に派遣、 現地技術者の日本国内での教育 とあります。現場経験のある人材を、本社の支援と教育機会を使って次の役割へ育てられます。
現場の技術力に、本社と現地をつなぐ力を加える
第8段落の 「また」 以降では、役員の訪問による方針伝達と、現地技術者の国内教育が示されます。派遣人材だけにすべてを任せているのではなく、本社の支援があります。この支援を使い、技術に強い人材を経営と育成へ広げる方向を考えます。
自分で現場を回す人から、拠点と次の担い手を育てる人へ
採算と人材を見て、拠点全体を判断する
技術や日々の工程に詳しくても、投資、人員、費用と利益を合わせて判断するには別の知識が必要です。現地法人の経営責任者を担う方向で育てるなら、財務・採算や人材配置など、事業全体を見る経営管理能力を高める必要があります。
現場の正しさだけでなく、拠点の持続的な運営を判断する力 を加えるということです。本社の方針を理解したうえで現地の状況を報告し、支援や判断を求められる関係も大切になります。
現地社員へ任せられる仕事を増やす
派遣者が問題をすべて解決し続けると、現地に判断できる人が育ちません。現地の中核人材に役割を与え、判断の理由を説明し、実践を振り返ることで、次世代の幹部を育てることが期待されます。海外拠点が増えるほど、自律的に現場を支える層の形成が重要です。
このためには、言葉や働き方の違いを理解し、相手の理解を確かめながら目的を伝え、協力を得る力が必要です。 異文化理解と、現地従業員をまとめ育てるリーダーシップ を、経営管理能力と組み合わせて伸ばす助言になります。
派遣人材の役割と向上能力を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
係長には現地工場を管理するだけでなく、本社の方針や技術を現地へ伝え、現地の課題・情報を本社へ戻す橋渡しが求められます。そのうえで、現地の後継管理者を育てて自律運営へつなげる指導・動機付け能力を高めます。財務など拠点全体を見る経営管理力と異文化間の意思疎通も必要です。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「海外展開の基本的な戦略」と経営ハンドブック「定着率を高める幹部教育」は、輸出・直接投資・インバウンドを分け、現地に精通する人材や取引先を確保する海外展開の要点と理念・ビジョン共有、経営を学ぶ機会、コーチングで経営幹部を育成・定着させる方法について解説しています。本問では、「戦略から必要な管理者像を定める」と「実務経験と計画的育成を組み合わせる」を2012年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2012年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 戦略から必要な管理者像を定める | 海外事業を自走させる本社・現地の橋渡し役と定める | 「海外経験を積ませる」だけでなく、誰へどの価値を生む役割かを書く |
| 実務経験と計画的育成を組み合わせる | 工場長経験に加え、財務・事業計画・リスク管理を学ばせる | 現場技術力だけで現地法人経営を任せない |
| 後継者へ段階的に権限を移す | 現地幹部を育成し、意思決定を委ねながら報告・監督を続ける | 派遣者への権限集中を固定化しない |
類題は、2022年度事例I第4問(設問2)(後継者へ段階的に権限委譲し人員配置する論点)、2016年度事例I第2問(設問2)(複数事業で人材を流動化し管理者の経験を広げる論点)、2020年度事例I第3問(戦略転換に合わせて営業担当者の能力を高める論点)です。共通するのは、期待役割を先に定め、その遂行に必要な能力と経験を設計することです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「海外展開の基本的な戦略」(輸出・直接投資・インバウンドを分け、現地に精通する人材や取引先を確保する海外展開の要点) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「定着率を高める幹部教育」(理念・ビジョン共有、経営を学ぶ機会、コーチングで経営幹部を育成・定着させる方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2012年度の与件事実を主根拠にします。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、日本国内で課長以上の社員を対象に成果主義型賃金制度を導入しようと考えている。中小企業診断士として、制度の設計および導入にあたって、A 社の場合、どのような点に留意すべきかを 120 字以内で助言せよ.
回答例(119 字)
短期の数量・利益だけでなく、品質保証・改善、部門間支援や部下育成等の長期貢献を評価し、協力を損なわないようにする。職務に応じ達成可能な目標と基準を共有する。制度説明と評価者訓練、面談・試行を通じて納得を得て、不安や運用上の問題を調整する。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、国内の課長以上に成果主義型賃金を導入する際の設計・導入上の留意点です。 連携・育成を損なわない評価項目と、納得できる評価の進め方 を両方示し、120字で助言します。
与件文から評価によって守るべき行動を読む
与件文のどこを見るか
- 第6段落: 現場での継続的なプロセス改善、 製品の異常を迅速に発見・対処する意識・能力 とあります。管理職が支えるべき成果は、量や利益だけでなく品質を守る行動と人材育成にもあります。
- 第9段落: 品質の安定維持・確保は、非正規社員の多い日本の工場でも依然として課題、 各2課の目標と達成度を掲示、 部門間や従業員同士の情報共有 とあります。国内では各課の目標を共有し、組織全体で品質を高めようとしています。
国内にも残る品質課題を、管理職の役割へ結びつける
第9段落の 「もっとも」 は、海外だけでなく国内にも品質維持の課題があることを示します。各課の目標を掲示し、情報共有を進めているA社では、自部門の数字だけを上げればよいという評価は、目指す行動と食い違うおそれがあります。
成果を求めるほど、協力と育成にも目を向ける
自部門だけを優先する誘因を避ける
課長が自部門の処理量や短期利益だけで評価されると、他部門を助けたり、時間をかけて部下を育てたりする活動が後回しになる可能性があります。品質問題の共有が遅れれば、A社の強みである品質保証にも影響します。
個人・部門の業績に加えて、共同改善、情報共有、部下の異常発見・対処能力の育成などを評価します。 部門間連携と部下育成を、組織への貢献として報いる ことで、成果とチームワークを両立させます。導入前から競争や隠蔽が起きていると断定せず、制度が招きうる行動への予防として考えます。
何をどう評価するかを明確にし、本人へ説明する
管理・業務・品質保証・製造では、成果の現れ方が異なります。同じ数字だけで比べるのではなく、担当する仕事に応じた目標と判断基準を設定し、本人と確認することが必要です。評価者の見方もそろえ、どの貢献をどのように評価したかを説明できるようにします。
評価基準・プロセスの透明性と、説明を通じた納得性 が導入を支えます。従来の目標・達成度の共有を活かし、成果の認識と処遇がつながる制度にする方向です。
成果主義型賃金の設計・導入上の留意点を120字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
成果主義では数量や短期利益だけを個人に競わせると、部門間の支援や品質改善、部下育成が後回しになるおそれがあります。個人業績に加えてチーム成果と長期貢献を評価し、職務条件に合う目標・基準を共有します。評価者訓練や面談で制度を説明し、納得を得ながら調整して導入します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」は、理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法について解説しています。本問では、「戦略に必要な行動を評価項目へ落とす」と「評価基準と過程を明確にする」を2012年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2012年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 戦略に必要な行動を評価項目へ落とす | 個人業績に加え、品質改善、部門間連携、部下育成を評価する | 売上・利益だけを成果とすると協働を損なう |
| 評価基準と過程を明確にする | 目標、達成度、評価根拠、面談・異議申立ての手順を示す | 数値化できない貢献を曖昧な主観評価にしない |
| 納得性と継続改善を確保する | 導入前に説明し、試行と見直しを行って公平感を高める | 制度を導入するだけで動機づけが高まると断定しない |
類題は、2010年度事例I第3問(成果主義を強めるメリットとデメリットを比較する論点)、2007年度事例I第4問(設問1)(能力・貢献と給与・業績反映の不一致が不満を生む論点)、2013年度事例I第2問(設問2)(定着のため評価・処遇と職場条件を整える論点)です。共通するのは、評価制度が望ましい組織行動、公平感、定着へ与える影響を因果で考えることです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」(理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2012年度の与件事実を主根拠にします。

