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2026年度 事例1(速報版)模範解答・解説 ​

独自作成の模範解答・評価基準。公式解答・公式採点基準ではなく、本試験の得点を予測・保証しない。

第1問(配点20点) ​

X社を買収するに至った背景にあるA社グループの課題を、(a)内部環境と(b)外部環境の観点から、それぞれ60字以内で記述せよ。

模範解答 ​

(a)内部環境(60字/60字以内)

課題は薄利の卸売中心で本格製造機能を欠き、商品基盤を外部に依存するため、高付加価値化と成長事業の創出が難しいことである。

(b)外部環境(57字/60字以内)

課題は、原材料・包材・物流費の上昇と、小容量・贈答兼日常使いへの需要変化、物語や用途を含む商品評価への対応である。

解説 ​

問われる主体は買収前のA社グループである。段落2の薄利の卸売、本格製造機能の不足と外部依存を内部環境、費用上昇と顧客の需要・評価軸の変化を外部環境に分ける。X社の後継者不足や老朽設備は買収対象側の事情であり、そのままA社の内部課題にはしない。内部・外部それぞれ60字にまとめ、解決策まで詰め込まない。

解答要素と与件根拠 ​

評価要素根拠段落充足の考え方
内部:卸売中心の収益構造2,3薄利の卸売中心であり、成長事業・収益基盤の構築が必要だと説明する。
内部:製造機能と外部依存2本格的な製造機能の欠如・商品基盤の外部依存を、高付加価値化等の制約として説明する。
外部:仕入・物流等の費用上昇2原材料・包材・物流等の費用上昇と、収益確保上の圧力を説明する。費用上昇を課題として明示すれば圧力の含意を認める。
外部:需要・評価軸の変化2小容量・贈答兼日常使い等の需要変化と、包装・物語・用途提案等の評価軸への対応を示す。

第2問(配点30点) ​

X社の買収後、A社グループがグループ全体で業務プロセスの整備を進めてきた理由はどこにあるのか。A社グループの組織運営の観点から、150字以内で記述せよ。

模範解答 ​

回答例(149字/150字以内)

理由は、各社の機能を連携させ、グループ全体の協働体制を築くためである。卸売・ECの顧客接点とX社の製造を結ぶには、醸造技術を尊重しつつ、受発注・在庫・製造・品質の情報と管理ルールを共通化する必要があった。属人化を解消し、役割や業務の可視化で各社間の調整を円滑にして、欠品・出荷漏れを防ぐためである。

解説 ​

設問は実施施策の列挙ではなく、組織運営上なぜ整備が必要だったかを問う。段落9では顧客接点と製造を結ぶため、売上予測から品質までの横断連携が不可欠とされる。段落8の相互不信、段落10の属人的運営も背景となる。固有の発酵技術を尊重しながら、情報・ルールを共通化し、役割や進捗を見えるようにして協働を支える因果を示す。単なるツール導入、欠品削減だけでは組織運営の説明が不足する。

解答要素と与件根拠 ​

評価要素根拠段落充足の考え方
各社の機能を結ぶ必要性6,9卸売・ECの顧客接点とX社の製造機能を結び、グループ横断で業務を連携させる必要を説明する。
共通の情報・ルールと可視化9,10受発注・在庫・製造・品質等の情報や業務ルールを整え、属人化の解消または役割・進捗の可視化につなげる。
技術尊重と統合後の協働8,9X社の技術を尊重しながら業務を整え、部門間調整・相互理解・安定供給等を通じた協働体制につなげる。

第3問(配点20点) ​

A社グループは、消費者の動向を意識したビジネスに必要とされるスキルを持った人材として、X社の従業員をどのように育成すべきと考えられるか。助言内容を100字以内で記述せよ。

模範解答 ​

回答例(98字/100字以内)

消費者ニーズを商品企画・提案に反映できる人材へ育成する。A社営業への同行やα社の販売データ分析で用途・嗜好を学ばせ、共同開発で発酵技術の価値を伝える提案を実践し、顧客の反応を改良に生かす力を養う。

解説 ​

育成対象はX社の従業員、育成目標は消費者動向を意識したビジネスに必要なスキルである。段落10の「使われ方に触れる機会が少ない」を解消する。A社営業への同行、α社データの分析、共同の商品開発等の実践で、製造技術を消費者に伝わる価値へ変える力を育む。顧客の反応を改良に戻す振り返りまで示すと育成が具体化する。これらは与件を踏まえた助言であり、既に実施済みの事実として扱わない。技能伝承や評価制度の整備は補助策として妥当だが、それだけでは設問の目標に届かない。

解答要素と与件根拠 ​

評価要素根拠段落充足の考え方
消費者動向を学ぶ機会2,10,11顧客訪問、用途調査、EC販売データ等を通じ、消費者の選択理由・使い方を学ぶ育成を示す。
グループ内の共同学習9,10A社企画・営業やα社との共同活動、相互研修等で、X社従業員の市場理解を育てる。
技術を顧客価値に変える実践2,6,10,11発酵技術の価値を用途提案・商品企画等に変える実践を通じて、X社従業員のスキルを育てる。
顧客の反応を改善へ戻す力9,10,11顧客反応・試験販売結果を振り返り、企画や製品を改善する力を育てる。

第4問(配点30点) ​

A社グループは、地域卸売企業から脱皮するため、X社を生かしたグループ全体の成長戦略をどのようなものにすれば良いと考えられるか。助言内容を150字以内で記述せよ。

模範解答 ​

回答例(149字/150字以内)

戦略は、発酵技術を核に商品の高付加価値化と販路拡大を図ることである。X社の製造とA社の企画・加工・卸売、α社のECを結び、小容量醤油や醤油活用加工品を開発し、製法の物語や用途を提案する。試験販売で改良し、定番品の供給と雇用を守りながら、英語・アレルゲン表示と安定供給を整え、海外へ段階的に展開する。

解説 ​

段落6の経営資源の補完関係と、段落11の需要・制約を組み合わせる。X社を単独で伸ばすのではなく、A社の販路・加工・企画とα社の試験販売を生かし、発酵技術を高付加価値商品へ変える。既存の定番品は売上・稼働・雇用の土台なので、急な廃止や全面転換を避ける。海外展開は有力な一案だが必須語ではない。国内の用途開発・加工品展開を需要検証と供給基盤維持の下で進める案も認める。機能別組織や事業部制の名称は本問の必須要素としない。

解答要素と与件根拠 ​

評価要素根拠段落充足の考え方
各社の強みを結合する戦略1,6,11X社の発酵・本格製造、A社の卸売・企画・加工、α社のECの役割を結び、グループ全体で価値を作る。
需要に合う高付加価値化2,6,11小容量・贈答兼日常使い・用途提案・醤油活用加工品等を、顧客反応を生かす開発や改良に結び付ける。
既存基盤と段階的成長の両立7,11定番品の供給・稼働・雇用等の基盤を守りつつ、需要と供給能力を確かめて段階的に拡大する。海外案では表示・安定供給等の準備を伴う。

根拠段落の対応 ​

段落1 ​

内陸県に本社を置くA社は、創業61年の地域特産品を扱う卸売業であり、土産品や日配食品の卸売を主力とし、自社企画によるたれ類、総菜などの簡易な加工食品の製造も小規模に手がけている。A社は、数年前にグループ経営体制(以下、A社グループ)へ移行し、A社社長と家族が株式全数を保有する持株会社の傘下にある中核事業会社である。A社グループの傘下には他に、取引先業者向けのECを担うα社も存在する。A社とα社の総売上高は約24億円、従業者数はパートを含めて49名で、内訳は営業・卸売14名、物流・倉庫14名、簡易加工11名、企画・管理5名、役員5名である。A社社長は地域の経営者団体の役員を務める地元の名士であり、「地域の雇用を守ることは商売人の責任である」とたびたび語ってきた。

段落2 ​

しかしA社の足元は平坦ではなかった。主力の卸売は薄利であり、原材料費・包材費・物流費は上昇を続けていた。卸先やα社のECを通じた取引先データを見ると、売れ筋は従来の大袋土産から、小容量品や贈答兼日常使いの商品へ移行していた。また、消費者は、味だけでなくパッケージ、ストーリー、使い方提案までを含めて商品を評価することを、都市部のバイヤーからも指摘されるようになっていた。A社は簡易加工には実績があったが、本格的な製造機能を有していないため、将来の輸出や高付加価値化を見据えた際、自社が扱う商品の土台を外部に依存せざるを得ないという業態の限界が顕在化していた。

段落3 ​

この変化を最も敏感に捉えていたのが、A社社長の長女で商品企画・経営企画担当の常務であった。長女は大都市のパッケージ会社勤務を経てUターンし、グループの顧客管理や受発注、営業データ管理、α社のEC運営など、業務プロセスの再構築を主導してきた人物であり、社内の信頼は厚かった。A社社長自身も「伸びる事業をつくらなければA社グループの存続は不可能である」と明言し、企業買収を通じた製造分野への進出を検討課題に据えていた。長女もまた同じ思いを抱いていた。

段落4 ​

そこで、買収候補として浮上したのが、同じ地域にある老舗醤油メーカーX社であった。創業110余年、売上高約2.1億円、従業者数13名(製造9名、営業・管理3名、社長1名)の小規模企業である。同社の醤油は、木桶仕込みと再仕込みを組み合わせた独特の製法により地元料理人からの評価は高く、A社の卸売でも長年取り扱ってきた。しかし、醤油市場は価格競争の厳しいコモディティ市場である。大手の量販攻勢が続くなか、売り上げの約7割は一升びんや業務用容器の定番品で占められ、利益率は低かった。受注は電話や電子メール、生産計画や在庫管理は表計算ソフトで行っており、多品種小ロットや海外向け仕様に対応するには体制が脆弱であった。

段落5 ​

X社の社長は70代前半で、親族にも社内にも後継者がいなかったため、設備更新の負担と人手不足から自社単独での存続に限界を感じていた。そこで、地元金融機関と事業承継支援機関への相談を経て、A社グループに正式な買収の打診がなされた。グループ内では意見が割れた。企画・管理の担当者は、醤油市場の厳しさ、X社の老朽化設備、グループ側の醸造や発酵技術への知見の少なさ、組織統合の負担を指摘した。

段落6 ​

これに対し長女は、グループにはA社の卸売販路、α社のECのノウハウやテスト販売機能があり、X社には発酵技術、本格的な製造機能があると整理した。両者が結びつけば、グループは地域の卸売企業から発酵を核とする価値創造企業へ踏み込め、X社は資金や販路、企画、業務基盤の課題を補えるというのが長女の主張であった。A社社長は最終判断の場で、X社を買収するとともに、長女をX社の新社長として兼務させることにした。

段落7 ​

X社は、持株会社の傘下に入り、A社グループ会社となったうえで、社名・主要ブランド名・雇用は維持された。X社の前社長は仕込み期間は顧問として残り、製法と取引先事情の引き継ぎを担った。A社グループの従業者数は62名になった。

段落8 ​

買収後の最初の課題は組織の統合であった。X社の現場には「技術畑でもない新社長に醤油づくりが分かるのか」という空気があり、グループ側にも「X社は数字で管理できず変化が遅い」という見方があった。A社社長は自ら毎週X社を訪問し、のれんや技術の伝承、雇用の維持といった買収の狙いを丁寧に説明した。長女も、X社の全従業員のみならず、A社の全従業員とも個別面談を行い、月1回の両社の合同ミーティングを設けて中堅社員にも発言の機会を与えた。

段落9 ​

長女が打ち出した方針は明快であった。X社の原料の見極め、発酵管理、火入れの勘所、最終の味づくりといった技術は残し、その活用方法を探ることにした。一方で、受発注や在庫、製造日報、ロット管理のデータはグループ内で効率的に収集・共有していくことにした。グループの強みはA社の卸売販路とα社のECからなる顧客接点の運営にあり、そこにX社の商品をのせる以上、売上予測から品質情報までをグループ横断で連携させる業務プロセスの整備が不可欠であった。これは単なるツール導入ではなく、グループの組織統合を支える土台と位置づけられた。長女を中心に、工場の整理整頓や動線の見直しから着手し、その後A社の標準化された業務フォーマットや管理ルールを段階導入した結果、X社では半年で欠品と出荷漏れが減少し、属人的な業務の実態が可視化された。

段落10 ​

しかし、人材面の課題はより深刻であった。A社では業務マニュアルや評価制度が整備され職務分掌も明確であったが、X社では勤続年数の長い社員が実質的な力を持ち、班長や工程責任者の役割は明文化されておらず、評価基準も曖昧であった。高齢社員と若手社員の間には技能伝承が十分ではない工程もあった。さらにX社の従業員は製造技術に誇りを持つ一方、自社商品が消費者にどう選ばれ、使われているかといったことに触れる機会が少なかった。加えて、A社の企画・営業担当者もX社の醸造現場や発酵技術への理解が乏しく、グループとしての商品提案力に課題があった。X社従業員を、グループの一員としてどう育成するかは、買収統合の成否を左右する問題であった。

段落11 ​

さらに、グループ全体としてどう成長戦略を描くかという論点も鮮明になった。X社の醤油を試験的に小容量の卓上瓶にして、α社経由で都市部の取引先に提案したところ、好意的な反応を得た。海外バイヤーからは、海外で日本の発酵食品に関する需要が高まり続けていることや、木桶熟成への関心の声の高まりが寄せられている。一方で、英語表示、アレルゲン表記、安定供給体制の整備の必要性も指摘されている。他方、A社の卸売・加工事業も、X社の本格醤油を取り込むことで自社加工食品の幅を広げ、卸先への提案力を高める可能性が見えてきた。とはいえX社の売り上げの土台は、定番の家庭用・業務用商品であり、生産の急拡大や再編成は工場稼働も雇用も揺るがす。既存事業を守りつつ、A社・X社双方の強みやα社をどう組み合わせ、グループ全体の成長へつなげるかの設計が求められていた。

段落12 ​

翌年度の予算編成を前に、A社社長と長女は近々、中小企業診断士の意見も聞きながら、成長戦略と人材育成計画の設計に着手することにしている。これは、グループが地域卸売企業からメーカー機能を内包する価値創造企業へ脱皮できるかの分岐点であった。

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