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令和 4 年度(2022 年度)事例 Ⅰ 解答解説
第 1 問(配点 20 点)
設問文
A 社が株式会社化(法人化)する以前において、同社の強みと弱みを 100 字以内で分析せよ。
回答例(94 字)
強みは高品質な苺等の栽培技術と、兄弟の生産・販売連携、有機野菜販売業者との関係である。弱みは役割が曖昧で繁閑差による人員配置が非効率なうえ、経験頼みの指導で未経験者が定着しにくい点である。
解説
この問題の着眼点
対象は株式会社化する以前のA社です。法人化後に得た大手中食業者との取引や、現在の直営店・後継者の経験を混ぜず、法人化前の強みと弱みを一つの100字答案にまとめます。二つの観点があるため、強みと弱みに約50字ずつの置き場所を確保して読みます。
この与件は、家族経営から作物や事業を増やし、法人化して現在の体制へ至る流れを描いています。会社が成長する過程で得た資源を、最初から持っていたものとして読まないことが大切です。まず法人化の出来事を境に置き、その前にどのような力と問題があったかを整理します。
根拠集めは最初、答案の確定は最後
強み・弱みの候補をマーキングして先へ進む
与件を読みながら、苺の品質、経営者兄弟の分担、現場の役割分担や従業員の定着など、強み・弱みの候補をマーキングします。この段階では100字に絞らず、後続設問へ進みましょう。 育成・定着や組織・承継を考えることで、活かす強みと補う弱みの重要度が見えてきます。
時点に合う候補の中で1軍・2軍を分ける
法人化前のA社に当てはまる候補の中で、後続設問でも使うものを1軍、その他を2軍として整理し、最後に第1問へ戻ります。ただし、大手中食業者との取引で蓄積した対応能力は、法人化前の強みにはできません。対象時点を確かめたうえで、1軍を優先し、強み・弱みを100字にまとめましょう。
与件文から法人化前の強み・弱みを拾う
与件文のどこを見るか
- 第2段落:苺は 糖度が高い だけでなく、大粒で形状や色合いが良く 人気でした。農産物の具体的な品質を実現する栽培技術が強みです。
- 第4段落:現経営者が生産を担い、弟は常務取締役として販売やその他の経営管理を担い、二人三脚で経営しています。販売業者の助言を受け 最終消費者が求める野菜作り も行っており、生産技術を販売・管理と結びつける補完関係があります。
- 第6段落:従業員間で明確な役割分担がなされていなかった うえ、繁忙期は従業員総出でも人手が足りず、閑散期は逆に人手が余る 状態です。経営者兄弟の分担と、現場の組織化は分けて評価します。
- 第7段落:従業員の定着が悪く、帰属意識の高い従業員を確保することが難しかった とあります。技能や業務経験を組織に蓄積しにくい点も弱みです。
技術の強さと組織の弱さは両立する
品質の良さを、再現する技術としてまとめる
高品質な作物を作る技術があっても、役割・配置・育成の仕組みが整っているとは限りません。 生産技術の強さと、現場を組織として動かす仕組みの弱さ を分けて捉えると、強みと弱みの両方が見えてきます。
第2段落の 糖度が高い 、 大粒で形状や色合いが良く という特徴は、人気を支える具体的な品質です。これを 高品質な農産物を作る技術力 と束ねれば、特徴を一つずつ並べずに強みを説明できます。一方、必要な数量を必要な時期に出荷するには、人員配置や需給調整も必要です。品質を生む技術と、供給を支える運営体制を区別します。模範解答では「高品質な苺等の栽培技術」と表し、安定した出荷体制まで確立していたとは扱いません。繁閑差による人員の過不足は弱みとして残します。
経営者兄弟の補完と、従業員の役割分担を区別する
現経営者が栽培に強く、弟が販売や管理を担うことで、作る力を事業として届ける力につなげられます。 生産と販売・経営管理を補い合う兄弟の連携 が強みです。販売業者から得た消費者の要望を野菜作りへ反映することにも、この分担を活かせます。
しかし、その分担が従業員全体にまで整っているとは書かれていません。第6段落の 「しかし」 は、社員数が増えたことに対して、役割分担が明確ではないことを示します。「連携体制が強みなのに役割分担が弱みなのは矛盾ではないか」と感じたら、経営者二人の分担と、現場全体の仕組みを分けて読みます。
人数だけでなく、配置と定着の問題として捉える
第6段落の 繁忙期は従業員総出でも人手が足りず 、 閑散期は逆に人手が余る という記述は、 繁閑差に合う人員配置ができていない 問題を示します。単に人手不足とまとめず、仕事量と配置の不一致として捉えます。
さらに、従業員が定着しなければ、作業経験や指導の成果が社内に蓄積されにくくなります。未経験者も迎え入れながら「見て盗め」に頼る状態では、人を増やすだけで組織の力が厚くなるとは限りません。技術を持つ人がいることと、その技術を組織として受け継げることを区別します。
後続設問の人材定着や組織構造に関わる役割分担・繁閑差・離職を優先候補として残すと、現状分析と助言がつながります。
強みと弱みを100字にまとめる
法人化前の強みは、生産技術と兄弟の役割分担に加え、有機野菜販売業者の助言を受けて消費者が求める野菜を作った関係です。内部の連携と市場につながる外部資源を区別して整理します。弱みは役割分担、人員配置、指導と定着の問題へまとめ、法人化後の大手中食業者との直接取引を混ぜません。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりについて解説しています。本問では、「顧客価値を生む資源・能力を強みにする」と「戦略実行を妨げる内部課題を弱みにする」を2022年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2022年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 顧客価値を生む資源・能力を強みにする | 高品質農産物の生産技術、兄弟の補完体制 | 市場価格など外部要因を混ぜない |
| 戦略実行を妨げる内部課題を弱みにする | 役割不明確、繁閑差、教育未整備、低定着 | 人手不足の一語にしない |
| 指定された時点を固定する | 株式会社化以前の状態だけを使う | 法人化後の直営店・食品加工を入れない |
類題は、2023年度事例I第1問 と2024年度事例I第1問 の強み・弱み分析です。共通点は、外部環境そのものではなく、自社が保有・制御する資源、能力、依存構造へ変換して分類することです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2022年度の与件事実を主根拠にします。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
A 社が新規就農者を獲得し定着させるために必要な施策について、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(99 字)
農業大学校と連携し就農体験で仕事を伝え採用する。指導担当と手順書によるOJTで育成し、役割・評価・休日を整え成長と生活の見通しを示す。面談と地域農家との交流で悩みを解消し、職場・地域への定着を促す。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、新規就農者の獲得と定着です。募集を増やすだけでなく、入社後に仕事を覚え、将来を描き、働き続けられる仕組みを100字で助言します。A社の教育方法、役割分担、勤務の難しさを施策へ変換します。
A社は既に農業未経験者や新卒にも門戸を開いています。それでも長く働く人の確保が難しいため、採用対象を広げるだけでは十分ではありません。応募する人が働く姿を想像でき、入社した人が成長と生活の見通しを持てる状態を考えます。
与件文から働き続けにくい理由を読む
与件文のどこを見るか
- 第6段落:経営者は 仕事は見て盗めというタイプ で、明確な役割分担がなされていなかった とあります。未経験者には、何を担当し、どう習得すればよいかが分かりにくい状態です。
- 第7段落:定時出社・定時退社で完結できる仕事ではない うえ、新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった とあります。農業未経験者にも中途採用の門戸を開いていた ため、作業技能だけでなく、働き方と地域との関係にも支援が必要です。
育成・将来像・働く環境を整える
「見て盗む」から、段階的に学べる教育へ変える
まず、担当する仕事と指導役を明確にし、OJTと作業手順のマニュアルを組み合わせます。「見て盗む」だけに依存しないことで、未経験者も段階的に技能を習得できます。身につけた技能が評価や次の役割にどう結びつくかを示せば、働き続ける見通しも持ちやすくなります。
経験者には当たり前の判断でも、初心者には何を見ればよいか分からないことがあります。作業の手順や注意点を言葉で示し、指導役と一緒に実践して振り返ることで、経験の差を埋めます。OJTはただ現場へ置くことではなく、教える担当と習得の段階を明確にした実地指導として提案します。
農作業には、手順として確認できることと、作物や天候の状態を見て判断することがあります。 マニュアルで基本を確認し、指導役とのOJTで判断を学ぶ ようにすれば、未経験者も何を身につければよいか分かります。教材と実地指導を組み合わせ、継続して学べる教育体制を作ります。
役割と評価を、将来の見通しにつなげる
役割分担が曖昧なままでは、何を任され、何ができれば認められるのかも分かりにくくなります。担当業務と期待する技能を示し、習得や仕事への貢献を評価することで、自分の成長を確かめられるようにします。
さらに、経験を積んだ後に担当範囲や責任がどう広がるかを示すことが、 キャリアパスの提示 です。技能の習得を評価し、次の役割へ結びつければ、仕事を覚えた先にも成長の機会があると伝わります。 学び方と将来像が見えることが、応募と定着の両方を支える と考えます。
農業の特性を踏まえ、負担と生活の不安を抑える
農業の繁閑や突発対応を踏まえ、 勤務計画や交代体制を整え、負担の偏りを抑える 方向で考えます。繁忙期と閑散期に応じた勤務の調整に加え、休みや相談の見通しを持てるようにすることが、地域で生活し続ける支えになります。
繁忙期に全員が長時間働くことだけを前提にせず、見通せる作業は計画し、突発対応では誰が担うかを共有する方向で考えます。福利厚生も制度名の列挙ではなく、働く上でどのような不安を減らすかに結び付けます。具体的な労働制度の適用判断や導入手続は、本問の答案とは分けて確認する事項です。
第7段落の 新参者が地域の農業関係者の中に溶け込み関係をつくることも難しかった 点にも対応します。既存社員が相談役となり、地域の関係者との接点を仲介するなど、 地域との関係づくりを会社が支える ことで、仕事や生活上の孤立を防ぎます。
これらの体制を採用時にも伝えれば、応募者が安心して選べる材料になります。獲得と定着を別々の施策集にせず、入社後の働きやすさが採用の魅力にもなると考えます。
獲得と定着の施策を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
骨格は「学校連携・就農体験で獲得→指導担当と手順書で育成→役割・評価・休日を整備→面談・地域交流で定着」です。教育と働きやすさだけでなく、未経験者が仕事を理解して入社する機会と、地域の農業関係者になじむ支援を残します。学校連携等は助言として示し、実施済みと扱いません。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「中小企業の人材確保・育成10カ条」と経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」は、人材を最大の経営資源と捉え、経営方針の明示から採用・育成・定着までを一体で進める要点と理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法について解説しています。本問では、「必要な役割・能力を明確にする」と「育成を標準化する」を2022年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2022年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 必要な役割・能力を明確にする | 役割分担を定め、未経験者も育てる | 採用広報だけで終えない |
| 育成を標準化する | 「見て盗め」からOJT・マニュアルへ変える | 二要因理論へ教育策を無理に収めない |
| 働き続けられる条件と成長機会を整える | 繁閑差、勤務時間、地域適応、評価・キャリアへ対応 | 衛生要因を直接的な意欲向上と説明しない |
類題は、2013年度事例I第2問(設問2) の低離職率を維持する施策、2014年度事例I第5問 の高度専門人材の長期定着、2016年度事例I第3問 の有能人材確保です。いずれも、労働条件による不満防止と、責任・承認・成長による意欲向上を分けて点検できます。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「中小企業の人材確保・育成10カ条」(人材を最大の経営資源と捉え、経営方針の明示から採用・育成・定着までを一体で進める要点) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」(理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2022年度の与件事実を主根拠にします。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
A 社は大手中食業者とどのような取引関係を築いていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(97 字)
品質と出荷を安定させ信頼を維持し、需要予測と生産計画を共有して受注量・納期を協議する。直営店や他販路を育て依存を分散し、新品種・加工品開発の余力を確保する。共同商品開発で対等な協力関係を深める。
解説
この問題の着眼点
大手中食業者との取引には、安定収益をもたらす面と、依存を強める面があります。取引をやめるか続けるかの二択ではなく、良好な関係を発展させながらA社の事業の選択肢も確保する方向を100字で助言します。
設問は「どのような取引関係を築くか」を問うています。依存割合が高いから直ちに取引を切るという結論でも、安定して売れるからすべてを集中するという結論でも、与件の片側しか見ていません。相手に提供する価値を高めることと、A社自身の成長余地を残すことを両立させます。
与件文から取引の利点と制約を読む
与件文のどこを見るか
- 第8段落:取引は 安定的な収益 をもたらし、A社は 対応能力を蓄積 しました。一方、売上高の依存割合が年々増加 し、新たな品種の生産が思うようにできていない 状態です。利点と制約を両方拾います。
- 第9段落:食品加工では 複数の業者に卸している ため、既存顧客以外へ価値を届ける基盤があります。
- 第10段落:直営店では 自社商品に関する消費者の声を取得 できるようになりました。これを新商品や提案に活かせば、単に注文へ応じる以上の関係を目指せます。
「他方」以降を見て、成功だけで止めない
売上が堅調で信頼も高まったという記述だけなら、取引拡大が自然に見えます。しかし、新品種へ取り組めない制約まで読むと、受注への対応だけで資源を使い切る問題が分かります。取引の価値を認めたうえで、過度な依存を抑える必要があります。
第8段落の 「他方」 は、取引の成功と、その裏で新しい取り組みが進まないことを対比しています。「信頼が高まった」は長所ですが、「忙殺されるあまり」は資源配分の制約です。同じ取引から利点と問題の両方が生まれていると捉えることが、助言の出発点になります。
提案できる相手になり、収益源も広げる
安定収益と蓄積した能力は、今後も活かす
大手中食業者との取引は、コロナ禍でも売上が堅調で、A社の経営を支えてきました。また、厳しい要求に応える過程で対応能力が蓄積されています。この関係を捨てれば、安定した収益だけでなく、能力を活かす機会も失うおそれがあります。
第8段落の 対応能力を蓄積 したという記述を、 厳しい要求に応える品質管理・供給のノウハウ と具体化します。注文されたものを納める力を土台に、次にどのような価値を提供できるかを考え、これまでの信頼を提案へつなげます。
自社の農産物・加工・顧客情報を共同開発へ結び付ける
厳しい要求への対応で得た品質管理や供給のノウハウを、新たな商品提案に活かします。共同商品開発は、A社が持つ農産物・加工・消費者情報を提供し、双方に利益のある関係へ進むための施策です。単に「対等になる」と宣言するのではなく、相手に提供できる価値を増やします。
自社工場では野菜や果物を使った商品を製造し、直営店では消費者の声を得ています。これらを組み合わせれば、作物を供給するだけでなく、食べ方や加工商品の提案へ広げることが考えられます。顧客の声をどのような商品価値に変えられるかを、大手業者と一緒に考える関係を目指します。
直営店の消費者情報を使い、大手中食業者と新商品の企画を考える関係を提案します。 注文に応える能力を、新しい価値を提案する能力へ広げる ことで、双方の事業に貢献する戦略的パートナーを目指せます。
大手以外へ届ける経路を育て、選択肢を増やす
同時に直営店や加工事業を育て、販売先を広げます。大手取引を直ちに縮小して安定収益を失うのではなく、新しい取り組みに人員や時間を配分し、徐々に選択肢を増やす考え方です。
加工事業には複数の卸先があり、直営店には地元だけでなく都市部からの顧客も来ています。A社は全く未知の事業へ飛び出すのではなく、既にある販売基盤を育てる方向が考えられます。収益源を広げれば、一社の発注や方針変更に全体が左右されるリスクを抑えやすくなります。
依存を緩和するには、 作る商品を増やすことと、届ける相手を広げること の両方が必要です。第9段落の 複数の業者に卸している 基盤や、直営店の顧客との接点を育て、一社の発注だけに左右されにくい収益構成を目指します。
また、既に忙殺されている状態なので、新規事業の仕事を上乗せするだけでは進みません。第4問で考える事業別の責任や人員配置が、新しい取り組みに継続して時間を使うための体制につながります。本問では配置の詳細まで広げず、取引の方向性を中心に答えます。
取引関係の方向を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
重要顧客との信頼を維持するために品質と出荷を安定させ、そのうえで需要予測・生産計画を共有し、受注量や納期を協議します。注文への対応に忙殺されない条件を整え、他販路の育成による依存分散と、新品種・加工品開発の余力確保を両立させます。共同開発はその余力を成長へ使う提案として位置づけます。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「多角化の方法」は、多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面について解説しています。本問では、「互いの補完資源を特定する」と「情報共有から共同提案・開発へ進む」を2022年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2022年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 互いの補完資源を特定する | 相手の需要・販路と、A社の品質・供給対応力を組み合わせる | 受注量の増加だけを関係強化にしない |
| 情報共有から共同提案・開発へ進む | 需要情報を基に新品種・加工品を試作し、評価を共有する | 相手の指示待ちを続けない |
| 得た能力を自社へ残し依存を管理する | 対応ノウハウを標準化し、直営店・加工・他販路へ展開する | 一社依存を深めるだけの答案にしない |
類題は、2021年度事例I第4問 の外部協力企業との関係発展と、2024年度事例I第4問(設問2) の取引関係強化です。共通点は、相手を単なる販売先でなく補完資源を持つ協働相手と捉え、共同価値、運営方法、自社能力への還流まで書くことです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「多角化の方法」(多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2022年度の与件事実を主根拠にします。
第 4 問(配点 40 点)
(設問 1)
A 社は今後の事業展開にあたり、どのような組織構造を構築すべきか、中小企業診断士として 50 字以内で助言せよ。
回答例(47 字)
生産・加工・直営販売を事業部に分け、責任権限を明確にして専門性を高め、後継者が全社を調整する。
解説
この問題の着眼点
問われているのは今後の組織構造です。50字なので、どの事業で分け、責任・権限をどう明確にするかを簡潔に示します。後継者の育成や個々の配置は次の設問で扱うため、ここでは組織の分け方と狙いを中心にします。
答案は短いですが、組織名を選ぶまでの考え方は省略しません。A社が生産だけでなく、加工、直営店へ事業を広げたことに対して、以前の兼務体制が追いついているかを確認します。新事業があるというだけでなく、兼務の限界が示されていることが改革の根拠です。
与件文から事業別運営の必要性を読む
与件文のどこを見るか
- 第9段落:直営店や食品加工の分野 へ広がりましたが、生産担当者が 兼任の形で従事 しています。異なる仕事が兼務に重なっています。
- 第10段落:新分野は成長する一方、人手不足が顕著 となり、生産を兼務する従業員だけでは対応できなくなりつつあった とあります。担当や責任を明確にして専門性を育てる必要があります。
事業の責任を分けて専門性を高める
兼務で始めた事業が、独立した判断を要する規模になる
第10段落の 「一方で」 は、新分野の売上成長と人手不足を対比しています。事業が成功しているから体制を変えなくてよいのではなく、成長に合わせた見直しが必要だと読みます。
新分野を始める段階では、生産の担当者が兼務すれば、少ない人員で試すことができます。しかし、売上が伸び、顧客対応や商品開発の仕事が増えると、生産の仕事の合間だけでは対応しにくくなります。兼務が最初から誤りだったのではなく、事業の成長に合わせて役割を見直す局面です。
誰が加工や直営店の成果に責任を持ち、日々の判断をするかを明確にすれば、常務や兼務者の都度の対応だけに頼らず運営しやすくなります。組織構造を変える狙いは、単に部門名を増やすことではなく、仕事の持ち主と判断範囲をはっきりさせることです。
事業ごとに責任と権限を対応させる
栽培、加工、顧客対応では必要な技能や判断が異なります。そのため、 生産・食品加工・直営販売を事業別に分け、責任者と権限を明確にする 方向が考えられます。事業ごとに運営と成果を担う単位を設ける組織形態が、事業部制です。
「責任」は、どの仕事や成果を担うか、「権限」は、そのためにどこまで判断できるかです。責任者を置いても、すべての判断を従来の経営者へ戻すなら、運営上の集中は残ります。任せる範囲を定めることで、担当者が継続して経験を積み、専門性を高められるようにします。
生産では栽培や収穫、加工では製造や商品づくり、直営販売では売場や顧客対応について判断します。 兼務者の空き時間に頼る運営から、各事業に責任を持つ運営へ変える ことで、継続して経験を蓄積し、専門性を高めやすくなります。
分けた事業の間には、連携も必要になる
ただし、組織名を変えれば人手不足が解決するわけではありません。必要な人員を配置し、原材料や顧客情報を事業間で共有することが実行上の前提です。50字ではそのすべてを列挙せず、設問2と役割を分けて、構造と専門性に焦点を合わせます。
A社では、自社で栽培した農産物を加工し、直営店で販売して顧客の声を得ています。事業を分けた結果、このつながりが切れれば、A社の強みを活かしにくくなります。販売側の要望を加工や生産へ伝え、供給できる量や時期も共有するなど、事業間の調整は残す必要があります。
これは各事業に管理機能をすべて重複配置するという提案でもありません。40名のA社として、事業の責任を分けることと、共通の仕事を効率よく担うことを両立させます。短い答案の背景には、分業だけでなく連携も必要だという理解を持ちます。
組織構造を50字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
骨格は「生産・加工・直営販売の事業別組織+責任権限と専門性+全社調整」です。分ける単位と任せる範囲を示し、後継者等が部門間を調整する役割を置きます。共通資源や顧客情報を使える関係を保ち、分業で連携が途切れない構造として説明します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」は、商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点について解説しています。本問では、「何を単位に分業するかを決める」と「恒常性と意思決定の性質を確認する」を2022年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2022年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 何を単位に分業するかを決める | 職能でなく、生産・加工・直営販売という事業単位で分ける | 「連携強化」の運営策だけで終えない |
| 恒常性と意思決定の性質を確認する | 三事業を継続運営し、市場別に迅速な判断が必要 | 一時的なプロジェクトチームを選ばない |
| 権限と成果責任を一致させる | 各事業の責任者へ人員・業務・採算の責任を持たせる | 事業部制という名称だけで終えない |
類題は、2025年度事例I第3問 の新規事業成長に向けた組織形態選択と、2019年度事例I第5問 の組織再編を見送った理由です。共通点は、組織形態を先に暗記で選ばず、戦略の確立度、事業の異質性、恒常性、必要な権限・成果責任から絞ることです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」(商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2022年度の与件事実を主根拠にします。
(設問 2)
現経営者は、今後 5 年程度の期間で、後継者を中心とした組織体制にすることを検討している。その際、どのように権限委譲や人員配置を行っていくべきか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(100 字)
まず後継者に直営・加工を任せ、経営者と常務が農業・経営管理を指導し、5年程度で全社責任を段階的に移す。若手を加工・販売へ専任配置し、熟練者から若手リーダーへ生産技術と管理責任も引き継ぎ、体制を支える。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、今後5年程度で後継者を中心とする体制へ移るための権限委譲と人員配置です。一度に全面交代するのではなく、後継者の得意分野から任せ、不得意分野を補いながら経営全体へ経験を広げる流れを100字で示します。
設問1が組織をどう分けるかを問うのに対し、こちらは誰に、どの仕事を、どのように任せていくかを問うています。「事業部制にする」と繰り返すだけでは、人への委譲や配置が見えません。後継者の経験と、支える経営者・常務・若手の役割を組み合わせて考えます。
与件文から任せる仕事と支える人を読む
与件文のどこを見るか
- 第4段落:現経営者が生産を担い、弟は常務取締役として販売やその他の経営管理を担い ます。二人の経験を、後継者を指導する役割へ活かせます。
- 第10段落:後継者には 店舗マネジメントや商品開発 の経験がありますが、農業については門外漢 でした。また 若手従業員からの提案を上手に取り入れ ており、若手を巻き込む関係も築いています。
- 第9段落:若手とパートが 兼任の形で従事 しています。新分野の成長に合わせ、専任化して経験を蓄積する方向を考えます。
得意分野から任せ、経営全体へ広げる
得意な仕事で、事業を率いる経験を積む
第10段落の 「一方で」 以降に兼務体制の限界が示されています。後継者一人に権限を渡すだけでなく、周囲に支える人材を配置する必要性につながります。
後継者には、経験を活かせる直営・加工をまず任せます。現経営者と常務は、従来どおりすべてを決め続けるのではなく、生産や経営管理を教え、判断を支える立場へ段階的に移ります。任せることと、支援をなくすことは別です。
第10段落の 店舗マネジメントや商品開発 の経験と、 若手従業員からの提案を上手に取り入れ た実績を活かし、 直営販売・加工を率いる責任と権限を与える ことが考えられます。得意分野で事業を動かす経験を積むことを、承継の出発点にします。
直営店は既に担当しているため、単に同じ担当名を付け直すのでは不十分です。担当業務をこなす立場から、事業の成果に責任を持ち、必要な判断を行う立場へ広げる意味で責任者に据えます。加工についても経験を活かせる面がありますが、工場運営のすべてを習得済みと決めつけず、現場と協力して任せる範囲を広げます。
現経営者と常務が、不得意分野と経営全般を補う
地域に根ざす農業を基盤にする以上、後継者には生産と経営全般を学ぶ機会も必要です。 現経営者が生産を、常務が販売・経営管理を指導する 役割分担が考えられます。二人が何を見て判断しているかまで引き継ぐことで、後継者が任せられる範囲を広げます。
指導する間も、後継者が自分で判断する機会を奪わないことが重要です。範囲を決めて任せ、結果を一緒に振り返り、習得状況に応じて広げることで、補佐と権限委譲を両立できます。今後5年程度という条件は、すべてを一度に渡すのではなく、移行期間を使って経営全体を担えるようにする意味で読みます。
若手を専任配置し、後継者を支える層を育てる
若手を各事業へ専任配置し、後継者を支える幹部候補へ育てる ことも必要です。兼務の負担を減らすとともに、継続して顧客や工程に関わり、責任ある判断を経験する機会を作ります。
若手は既に新分野へ関わり、提案もしています。その経験を、余裕があるときだけ手伝う形で終わらせず、継続して事業を担う役割へつなげます。担当分野の顧客や工程を深く理解することが、専門性を高めるという意味です。
ただし、専任化によって人数が増えるわけではありません。生産の人員を無計画に抜けば基盤事業に支障が出るため、仕事量や必要技能を確かめながら配置を見直す必要があります。100字答案では細かな人数配分まで創作せず、兼務解消と専門性向上という方向を示します。
後継者だけがすべての判断を抱え込む体制では、現経営者への集中を別の一人へ移すだけです。若手にも責任ある仕事を経験させ、幹部候補として育てることで、後継者を中心に複数の人が支える体制を目指します。
権限委譲と人員配置を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
骨格は「得意な直営・加工から任せる→指導を受けつつ5年程度で全社責任へ移る+加工・販売の専任配置+生産技術・管理責任の承継」です。後継者への権限移譲だけでなく、現経営者が担う生産の知識と判断を次のリーダーへ伝え、基盤事業を維持する配置も示します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「後継者の選択と育成」と経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」は、承継候補と期間・将来像を定め、社内外の経験と責任ある地位で後継者を育てる方法と現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続きについて解説しています。本問では、「経験が適合する役割から任せる」と「責任と権限を段階的に広げる」を2022年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2022年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 経験が適合する役割から任せる | 飲食・商品開発経験を直営・加工へ生かす | 直ちに全事業を丸投げしない |
| 責任と権限を段階的に広げる | 現経営者・常務の補佐下で農業を習得 | 権限だけでなく評価・助言を付ける |
| 次世代組織を同時に育てる | 若手を専任配置し、幹部候補として育成 | 後継者一人の育成で終えない |
類題は、2021年度事例I第2問 の新部門統括による後継者育成と、2024年度事例I第2問 のプロジェクトリーダー任命です。共通点は、本人の経験が戦略課題へ適合することと、責任ある地位で経営能力を育てることの両方を書く点です。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「後継者の選択と育成」(承継候補と期間・将来像を定め、社内外の経験と責任ある地位で後継者を育てる方法) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」(現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続き)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2022年度の与件事実を主根拠にします。

