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令和 3 年度(2021 年度)事例 Ⅰ 解答解説
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
2 代目経営者は、なぜ印刷工場を持たないファブレス化を行ったと考えられるか、100 字以内で述べよ。
回答例(99 字)
印刷の技術革新で価格競争と設備更新負担が増す中、工場を売却して固定費と投資リスクを抑えるため。工程別の協力企業を活用し、顧客相談と工程調整に資源を集中して、高品質な美術印刷の多様な注文に応える狙い。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、なぜ工場を持たない事業へ転換したのかです。設備を売ったという事実から一歩進み、外部環境の変化に対し、何を社外へ任せ、何へ資源を集中したかを100字でつなぎます。
印刷会社なのに印刷機を持たない、という選択に注目します。A社は印刷の仕事そのものをやめたわけではありません。製造設備を自社で保有する役割から、顧客の要望を受けて外部の専門企業を組み合わせる役割へ移りました。手放したものと、社内に残したもの を対にすると、経費節減だけでは説明できない転換の狙いが見えてきます。
与件文からファブレス化の背景を読む
与件文のどこを見るか
- 第4段落:技術革新で 新規参入が容易 になり、印刷の単価が下がっていった とあります。一般的な印刷で設備を更新し続けても、価格競争に巻き込まれる環境です。
- 第5段落:印刷機、印刷工場を順次売却 し、外部に 顧客の細かいニーズに対応できるような分業体制 を整えました。同時に、美術印刷の分野にのみ需要を絞る ことで、高精度な仕上がりが求められる分野 の需要を獲得しました。設備を手放すことと、勝負する市場を選ぶことが一体になっています。
- 第6段落:顧客との接点となるコンサルティング を社内に残し、ディレクション業務へと特化 しています。顧客と専門企業をつなぎ、多工程を調整する働きが自社の中心です。
設備を持つ競争から、専門企業を組み合わせる競争へ
技術の進歩で、従来の技能だけでは差がつきにくくなる
第3段落では、オフセット印刷機によって 大量・安価に印刷が仕上げられる ようになっています。さらに第4段落では、デジタル化により 新規参入が容易 になり、 印刷の単価が下がっていった とあります。技術革新が、それまで専門技能を持つ会社に任せていた仕事を、別の企業でもできるようにしたのです。
1990年代からの転換は、オフセット印刷機の普及に始まり、後のデジタル化へ続く環境変化の中に位置づけます。 技術革新によって専門技能で差をつけにくくなり、価格競争が進む という流れを押さえると、同じ設備競争を続ける以外の道を選んだ理由が見えてきます。
設備を抱えず、案件に合う専門性を活用する
他社が印刷設備を刷新する中、A社は外部の専門設備や技能を活用する道を選びました。 設備保有・更新の負担を抑え、顧客対応や工程調整へ資源を集中する 狙いが読み取れます。自社で設備を抱える範囲を小さくすれば、案件に応じて必要な専門性を選びやすくなります。
美術印刷では、紙やインク、版式、加工など、制作物に応じて必要な専門性が変わります。すべての設備を社内にそろえるのではなく、案件に合う協力企業を選べれば、多様な注文へ対応しやすくなります。外部委託は単に安く作ってもらう方法ではなく、自社だけでは抱えきれない専門性を使う方法 でもあります。
顧客対応と工程調整を、自社が選ばれる理由にする
美術印刷は、多工程で高品質・高精度が求められます。そこで、顧客の希望に合う仕様を決め、必要な協力企業を手配する能力が価値になります。工場をなくしたこと自体ではなく、外部を活用して多様な需要へ応える仕組みが重要です。
顧客が複数の専門企業へ個別に発注して、品質や納期の調整まで担うのは容易ではありません。A社が窓口になり、図案・仕様の決定と工程間の調整を引き受けることで、一括受注する意味が生まれます。外注するほどA社の仕事がなくなるのではなく、社内に残した調整能力が外部の専門性を顧客価値へ結びます。
ファブレス化の理由を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
骨格は「価格競争・設備更新負担→工場売却で固定費・投資リスクを抑制→外部の専門性を活用し自社は顧客相談・工程調整へ集中」です。設備負担が増したという背景と、負担を抑えるという目的を対応させ、最後に美術印刷の多様な品質要求へ応える狙いを置きます。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「アウトソーシング」は、外部資源を計画的に活用し、コスト・生産性・人手不足を改善しながら中核業務へ集中する方法について解説しています。本問では、「非中核業務へ外部資源を活用する」と「自社資源を強い業務へ集中する」を2021年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2021年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 非中核業務へ外部資源を活用する | 印刷工場・職人のネットワークを利用 | 外注した事実だけで終えない |
| 自社資源を強い業務へ集中する | 顧客対応、工程調整、ディレクションへ特化 | コスト削減だけを目的にしない |
| 外部活用後も調整能力を保持する | 顧客と版下職人・印刷工場を仲介 | 丸投げではなく品質・納期を統合する |
類題は、2013年度事例I第1問(設問2) の少数正社員体制と、2017年度事例I第2問 の少人数運営です。共通点は、外部資源を使いつつ自社に残す中核機能と調整能力を明確にすることです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「アウトソーシング」(外部資源を計画的に活用し、コスト・生産性・人手不足を改善しながら中核業務へ集中する方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2021年度の与件事実を主根拠にします。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
2 代目経営者は、なぜ A 社での経験のなかった 3 代目にデザイン部門の統括を任せたと考えられるか、100 字以内で述べよ。
回答例(99 字)
広告代理店勤務で培った企画力やデザイナー等との人脈を活かし、紙媒体以外のウェブ・コンテンツ分野を広げるためである。加えて、新部門の統括を任せて権限委譲し、後継者として経営経験を積ませる狙いがあった。
解説
この問題の着眼点
着目するのは、A社での経験がなくても任せる理由です。社内経験の不足だけを見るのではなく、新部門に活かせる社外経験と、任せることで得られる経営経験を分けます。能力活用と後継者育成の二つを100字に入れるため、約50字ずつの配分を意識します。
3代目にはA社での経験がない一方、広告代理店での勤務経験があります。 A社の既存業務の経験と、新部門に活かせる社外経験を分ける と、新しいデザイン部門を任せる合理性が見えてきます。そのうえで、統括を任せることが将来の経営にどう役立つかを考えます。
与件文から3代目に任せた意味を読む
与件文のどこを見るか
- 第8段落:3代目は 広告代理店に勤務 し、デザイナー、アーティストとの共同プロジェクト の人脈を持っていました。2代目は 図案制作の工程を版下制作から独立させて 新部門を発足させ、その統括を任せています。3代目は ウェブデザイナーを 2 名採用 し、紙以外の広告制作へ業務を広げています。
- 第6段落:A社は 顧客との接点となるコンサルティング と ディレクション業務 を重視していました。社外の専門家をまとめる経験を、新事業でも活かせると考えられます。
社外で培った力を活かし、経営を経験させる
第8段落冒頭の 「また」 は、デジタル化に対応する人材の採用に続き、3代目を核とする新部門づくりへ話を広げています。設備や制作技術だけでなく、人と組織によって新分野を担う流れです。
新しい仕事には、社外で培った経験が役立つ
既存の印刷工程に長く従事した経験と、新しい広告制作を進める経験は同じではありません。3代目の広告代理店での仕事や人脈は、ウェブ・コンテンツ分野へ進むための資源です。A社を知らないから不適任と決めず、任せる仕事と持っている能力の対応を考えます。
広告制作では、顧客が伝えたいことを企画にし、表現を担う人を組み合わせて形にする力が必要です。第8段落の 広告代理店に勤務 した経験や、 デザイナー、アーティストとの共同プロジェクト への参画から、 広告の企画と専門家との協働に活かせる力 を読み取ります。印刷以外の表現へ広げる新部門と、その経験が対応しています。
人脈については、知り合いが多いこと自体より、その人脈を通じてウェブデザイナーを採用した点に意味があります。社内になかった専門性を取り込み、紙媒体以外の仕事を担える体制へ変えています。経験・人脈→専門人材の確保→新分野への展開 と結ぶと、なぜこの人へ任せたかが具体的になります。
既存工程から独立させ、力を発揮する範囲を作る
図案制作を版下制作から独立させたことも、任命と一緒に読みます。図案を印刷工程の一部分としてだけ扱うのではなく、紙に限らない広告制作へ広げるための組織上の受け皿を作ったと考えられます。その部門を、広告代理店での経験を持つ3代目に任せるという対応です。
第8段落の 図案制作の工程を版下制作から独立させて という配置を、 紙媒体の制作工程に収まらない企画を担う場づくり と捉えます。3代目の能力を使える部門を用意することと、その統括を任せることがつながっています。
制作担当ではなく、部門の統括を経験させる
また、新部門の統括は、制作を担当するだけでなく、人を集め、案件を動かし、部門全体を判断する立場です。 責任と権限を持たせ、後継者として経営経験を積ませる 狙いも推論できます。専門家として仕事ができることから、組織を動かして成果を出すことへ、経験の幅を広げる配置です。
まず得意分野に近い部門を任せれば、その強みを使いながら、人材や仕事を取りまとめる経験を積めます。2代目が経営を担う間に、将来の承継へ向けた実践の場を与える意味があります。 持っている専門性を活用しながら、経営者に必要な力を育てる という二つの狙いが一つの配置に重なっています。
任命の狙いを100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。
前半で 広告代理店での経験・人脈を活かして新分野を広げる 、後半で 部門統括を通じて後継者を育てる と、50字×2で書くことを意識します。「任せた狙いは〜するため」と、設問の任命行為に対応する形にまとめましょう。
持っている力と、これから身につける力を分ける
答案の骨格は、 経験・人脈を活かす事業展開+部門統括による後継者育成 です。前半には広告代理店で得た企画力・人脈をウェブ・コンテンツ分野へ活かすこと、後半には責任と権限を与えて経営経験を積ませることを入れます。これで、なぜデザイン部門なのかと、なぜ制作担当ではなく統括なのかの両方に答えられます。
字数を詰める際は、採用人数や共同プロジェクトの説明を「企画力・人脈」にまとめます。ただし、その力の出所である「広告代理店勤務」と、活用先である「ウェブ・コンテンツ分野」は残します。後半も「育成」とだけ書かず、「部門統括を通じて経営経験を積ませる」と方法を添えると、配置と効果の対応が伝わります。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「後継者の選択と育成」と経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」は、承継候補と期間・将来像を定め、社内外の経験と責任ある地位で後継者を育てる方法と現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続きについて解説しています。本問では、「社外経験を新戦略へ活用する」と「責任ある地位で意思決定を経験させる」を2021年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2021年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 社外経験を新戦略へ活用する | 広告代理店勤務とクリエーター人脈 | A社経験がないことだけを弱みにしない |
| 責任ある地位で意思決定を経験させる | 新設デザイン部門の統括を任せる | 親族だからという説明にしない |
| 強みから任せ、将来の範囲を広げる | ウェブ・コンテンツ分野から後継者経験を積む | 即時の全社承継と混同しない |
類題は、2024年度事例I第2問 の長女をプロジェクトリーダーへ任命した狙いと、2022年度事例I第4問(設問2) の後継者への権限委譲・人員配置です。共通点は、経験適合と育成目的を分けずに書くことです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「後継者の選択と育成」(承継候補と期間・将来像を定め、社内外の経験と責任ある地位で後継者を育てる方法) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」(現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続き)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2021年度の与件事実を主根拠にします。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、現経営者である 3 代目が、印刷業から広告制作業へと事業ドメインを拡大させていった。これは、同社にどのような利点と欠点をもたらしたと考えられるか、100 字以内で述べよ。
回答例(100 字)
利点は既存顧客に印刷以外の広告制作も一括提案でき、収益源を拡大・分散できる点である。欠点は新分野では競争が激しく、新規需要の創造や営業開拓が必要で、経営資源が限られるA社では受注拡大が難しい点である。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、広告制作業へ領域を広げた利点と欠点です。新事業の魅力だけでも、受注が伸びない問題だけでも不十分です。100字の中に二つの観点を置き、できるようになったことと、その実現を難しくする条件を説明します。
事業ドメインの拡大とは、ここでは印刷物を作る仕事から、ウェブやコンテンツも含めた広告制作へ仕事の範囲を広げたことです。顧客へ提供できるものは増えますが、それを買ってもらうための提案や営業も必要になります。制作できる範囲の拡大と、受注できるかどうか を分けて考えます。
与件文から拡大の効果と難しさを読む
与件文のどこを見るか
- 第8段落:紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ、既存の顧客に向けた広告制作 へ拡大しました。一方、新規の需要を創造 する必要があり、新規の市場を開拓するための営業に資源を投入することも難しい 状態です。
- 第10段落:既存顧客からの紹介や口コミ で顧客を取り込むものの、売り上げにおいて目立った回復のない 状態が続いています。事業を広げたことと、収益拡大を実現したことは区別します。
「しかしながら」以降で実現条件を確かめる
第8段落の 「しかしながら」 は、新しい制作能力を持ったという前半から、案件を獲得しにくいという後半へ話を切り替えます。続く説明では、既存顧客にも需要を起こす必要があること、競合が多いこと、営業へ資源を回しにくいことが重なっています。ここを「新事業は失敗した」の一言で片づけず、何が利点の実現を妨げているかを読みます。
紙以外にも対応できることは利点ですが、既存顧客が自然に新サービスを買うとは限りません。顧客の課題に合う使い方を提案し、需要を起こす必要があります。競合も多いため、領域を広げただけで受注が増えるという説明にはしません。
提供できる価値は広がるが、営業負担も増える
既存顧客に、紙以外も含めた提案ができる
利点は、 印刷とウェブ・コンテンツを組み合わせ、既存顧客へ幅広く提案できる ことです。これまで築いた顧客との接点を活かし、印刷物の受注だけでなく、広告全体の相談を受ける機会へ広げられます。
例えば紙とウェブを組み合わせて広告を出したい顧客なら、一括して相談できることで複数の依頼先を探し、内容を調整する負担が軽くなります。顧客にとっての便利さと、A社にとっての受注機会の広がりを結びつけて考えます。
また、第8段落の 紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ たことから、 紙媒体への依存を緩和し、収益源を広げる 利点も考えられます。印刷需要が縮む中でも、顧客の広告需要を別の形で受け止められる可能性が生まれます。
新しい需要は、サービスを用意するだけでは生まれない
既存顧客の多くは地域の中小企業です。印刷を注文していた顧客が、そのままウェブやコンテンツも必要とするとは限りません。何に困り、どのように広告を役立てたいかを聞き、利用する意味を伝える仕事が必要になります。これが 既存顧客に対しても需要を創造する必要 があるということです。
既存顧客との関係は相談の入口になりますが、その顧客に新サービスを買う理由まで備わっているわけではありません。 顧客との接点を活かせることと、需要を創る必要があること を分けると、利点と欠点を無理なく両立させて説明できます。
競争への対応に、限られた資源を使う必要がある
欠点は、新しい競争相手と向き合い、需要創造や営業開拓へ資源を配分しなければならないことです。限られた人員のA社には、その負担が受注拡大の制約になります。単に「資源が分散する」ではなく、何への資源投入が必要になったかを示します。
制作を担う人材を確保しても、顧客を訪ね、提案を組み立て、受注につなげる力は別に必要です。第10段落の 既存顧客からの紹介や口コミ による顧客獲得と、 売り上げにおいて目立った回復のない 状態を合わせると、 制作能力の拡大に、需要創造・営業の力が追いついていない ことが課題として見えてきます。
利点と欠点を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。
利点は一括提案と収益源の拡大・分散 、 欠点は競争と需要創造・営業の負担 と対比します。問われている観点が二つなので、50字×2で書くことを意識し、両方の置き場所を確保します。
利点には提供価値を、欠点には実現を妨げる条件を置く
答案の骨格は、 一括提案による収益機会の拡大+競争・需要創造に伴う営業負担 です。利点には、既存顧客へ紙以外も含めて提案でき、収益源を広げられることを入れます。欠点には、競合が多く、需要創造や市場開拓に営業資源が必要なのに、A社にはその余力が乏しいことを入れます。利点は提供価値、欠点はその価値を受注に変える難しさとして書き分けます。
最後に、A社の資源制約によって受注拡大が難しい点へ結びます。第4問・第5問ではその制約への対処を考えますが、本問は利点と欠点の説明です。「営業部を設置すべき」などの助言へ移らず、設問の二つの観点に100字を使います。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「多角化の方法」と経営ハンドブック「アンゾフの成長マトリックス」は、多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面と既存/新規の商品と市場を分けて成長方向を選ぶアンゾフの成長マトリックスについて解説しています。本問では、「既存資源と新事業の関連性を確認する」と「シナジーと収益源分散を評価する」を2021年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2021年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 既存資源と新事業の関連性を確認する | 既存顧客へ印刷と広告制作を一括提案できる | 利点を売上増加だけにしない |
| シナジーと収益源分散を評価する | 顧客基盤を共有し、紙需要減少を補える | 関連多角化の利点を具体化する |
| 市場開拓力と資源分散リスクを点検する | 新分野は競争があり、営業資源も不足 | 新事業一般の欠点にしない |
類題は、2016年度事例I第1問(設問2) の新規事業が成果を上げなかった要因と、2023年度事例I第4問(設問2) の統合後の競争・成長戦略です。共通点は、事業ドメイン拡大の利点と実行資源の制約を両面で評価することです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「多角化の方法」(多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「アンゾフの成長マトリックス」(既存/新規の商品と市場を分けて成長方向を選ぶアンゾフの成長マトリックス)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2021年度の与件事実を主根拠にします。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
2 代目経営者は、プロジェクトごとに社内と外部の協力企業とが連携する形で事業を展開してきたが、3 代目は、2 代目が構築してきた外部企業との関係をいかに発展させていくことが求められるか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(98 字)
既存の職人との信頼を維持し、ウェブ等の専門家とも連携する。顧客の目的・仕様・品質・納期を早期に共有し、企画から役割と進捗を調整して共同提案する関係へ発展させ、紙とデジタルを組み合わせ新需要を創る。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、2代目が築いた外部企業との関係をどう発展させるかです。協力企業を増やすだけでなく、制作工程を依頼する関係から、顧客の課題を一緒に見つけて提案する関係へ進める意味を考えます。
既にプロジェクトごとの連携は行われています。そのため「外部企業と連携する」とだけ助言しても、現在と何が違うのかが分かりません。今の関係でできていることと、これから一緒に行うこと を対比し、発展の方向を示します。対象は社外との関係であり、社内組織の変更だけで答えないことも大切です。
与件文から連携の現在地を読む
与件文のどこを見るか
- 第6段落:A社は 協力企業に対して指示を出し、各工程間の調整 を行っています。受注後の制作をまとめる仕組みが蓄積されています。
- 第9段落:外部のフォトグラファーやイラストレーター、コピーライター などと協力し、事業案件に合わせてプロジェクトチーム を作っています。印刷以外にも専門性の幅があります。
- 第8段落:新規の需要を創造 する必要がある一方、営業に資源を投入することも難しい とあります。制作力を組み合わせるだけでなく、受注を生む段階での協力が課題です。
受注後の分業から、受注を生む協働へ進む
制作をまとめる力は、既にA社にある
現在の強みは、案件に応じて専門家を集め、仕様や工程を調整できることです。これを企画段階まで広げれば、顧客の伝えたい内容や困りごとに対し、印刷・画像・文章・ウェブを組み合わせた提案ができます。
2代目の仕組みは、外部へ丸投げするだけの関係ではありません。A社が顧客と接し、必要な仕様を決め、各工程へ指示を出して調整することで、専門企業の分業が成り立っています。この蓄積は維持します。そのうえで、新しい広告制作では案件の獲得そのものが難しいため、協力する範囲を受注前へ広げる必要があります。
第6段落の 協力企業に対して指示を出し 、 各工程間の調整 を行う働きを土台として、 受注した仕事を作る関係から、受注する仕事を一緒に考える関係へ広げる と捉えます。既存の関係を壊すのではなく、協力する時点と内容を広げる助言です。
専門家の知恵を、企画を考える段階から使う
制作内容をA社だけで決めてから外注すると、外部の専門性は主に依頼された工程で使われます。一方、顧客の課題を共有し、企画段階から相談すれば、写真・文章・デザインなどの立場から表現や媒体の使い方を考えられます。完成した発注仕様を渡す前に知恵を持ち寄る点が違います。
例えば、商品を知ってもらいたい顧客に対し、紙面だけでなくウェブでの見せ方も含めて考える提案ができます。写真・文章・デザインの担当者が企画段階から参加すれば、それぞれの視点で方法を出し合えます。 専門性を組み合わせて顧客課題を解決する ことが、共同企画の中身です。
共同提案によって、営業資源の不足を補う
外部企業の知識や顧客との接点も持ち寄り、共同提案へ進めることで、 A社だけでは不足する営業資源を補う 狙いがあります。第8段落の 営業に資源を投入することも難しい という制約に、社外と協力して需要を作る方法で対応します。
A社が顧客の要望を整理し、外部の専門家と一緒に実現方法を考えることで、提案内容を具体的にし、顧客が依頼する理由を作ります。 制作段階で築いた信頼を、共同で需要を創る関係へ活かす ことが、営業力の補完につながります。
継続して協働するには、誰が顧客窓口になり、企画・制作をどう分担し、得られる利益をどう扱うかの認識も合わせます。これらは関係を機能させるための補足であり、100字に契約の細目を列挙する必要はありません。既存の信頼を土台に、双方に参加する意味がある関係として考えます。
外部企業との関係を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
指示・発注中心の関係を発展させるには、完成した仕様を渡す前に顧客の目的、求める品質、納期を共有し、専門家が企画段階から参加できるようにします。骨格は「既存の信頼と専門家の拡充→早期の条件共有→役割・進捗を調整した共同提案→紙とデジタルによる新需要」です。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」と経営ハンドブック「アウトソーシング」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりと外部資源を計画的に活用し、コスト・生産性・人手不足を改善しながら中核業務へ集中する方法について解説しています。本問では、「相互補完する専門能力を組み合わせる」と「情報を共有して共同提案・共同開発する」を2021年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2021年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 相互補完する専門能力を組み合わせる | 社内とデザイナー、職人、印刷工場等が連携 | 発注先を増やすだけにしない |
| 情報を共有して共同提案・共同開発する | 顧客課題を基に企画段階から協働 | 関係強化を懇親だけで終えない |
| 調整主体と双方の利益を明確にする | 3代目が外部専門家を束ね、新需要を創る | 一方的な値下げ要求にしない |
類題は、2022年度事例I第3問 の大手中食業者との戦略的関係と、2024年度事例I第3問 の外部資源を統合した3PL能力です。共通点は、取引相手を補完資源として捉え、共同価値と自社能力への還流まで書くことです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「アウトソーシング」(外部資源を計画的に活用し、コスト・生産性・人手不足を改善しながら中核業務へ集中する方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2021年度の与件事実を主根拠にします。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
新規事業であるデザイン部門を担う 3 代目が、印刷業を含めた全社の経営を引き継ぎ、これから事業を存続させていく上での長期的な課題とその解決策について 100 字以内で述べよ。
回答例(97 字)
課題は両部門の連携強化と待ち営業の改善、印刷事業の承継である。共同案件で二代目から顧客・職人関係と工程調整を三代目へ引き継ぎ、両部門で紙とウェブを提案し、自ら顧客の課題を聞いて新需要を開拓する。
解説
この問題の着眼点
3代目は新部門だけでなく、印刷を含めた全社の存続を担います。長期的な課題と解決策を100字で対応させ、二つの部門の強みをどう結び、受注を増やすかを説明します。第4問の外部連携だけを繰り返さず、社内と営業のあり方へ視野を広げます。
自分が担ってきたデザイン部門だけを伸ばす立場から、既存の印刷部門も含めて経営する立場へ変わった点が重要です。新事業への転換を理由に印刷を切り捨てるのではなく、両部門に蓄積された力を、今後も顧客に選ばれる提案へどうつなぐかを考えます。
与件文から全社経営の課題を読む
与件文のどこを見るか
- 第5段落:印刷には 高品質、高精度な印刷 をまとめる強みがあります。新事業へ移るからといって、捨てるべき能力ではありません。
- 第8段落:ウェブ制作、コンテンツ制作 へ拡大しましたが、印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労 しています。新しい制作能力を売上へつなげる必要があります。
- 第10段落:印刷部門 5 名とデザイン部門 10 名 の体制で、特に営業活動を行わず、既存顧客からの紹介や口コミ に依存しています。全社の能力を自ら提案する動きが弱いと読めます。
二部門の能力を顧客への一つの提案にする
印刷の強みを残し、デザインと組み合わせる
印刷とデザインを別々の仕事として売るだけでなく、紙とウェブを組み合わせて顧客の広告目的に応える提案へ変えます。紙の品質とデジタル表現を活かしたクロスメディア提案は、両部門の情報共有や共同企画があってこそ具体化できます。
第1問で確認したように、A社は高品質な印刷を必要とする需要に対し、外部の専門企業をまとめて応える力を築きました。一般的な印刷の価格競争が厳しいからといって、この能力まで価値を失ったわけではありません。3代目のウェブ・コンテンツ制作と組み合わせれば、既存の強みを別の形でも活かせます。
例えば展示会の案内を紙で届け、詳しい情報をウェブで伝えるように、媒体ごとに役割を分ける提案が考えられます。顧客の目的に合わせ、 紙とウェブの特性を組み合わせて広告効果を高める ことが、 クロスメディア提案 の狙いです。
両部門の連携を強め、強みを結び付ける
第10段落では、 印刷部門 5 名とデザイン部門 10 名 の体制です。組織上は二つの専門部門がそろっていますが、顧客から見て一体の提案にならなければ、組み合わせの価値は伝わりません。 両部門の強みを、全社の提案力へ結びつける ことを長期的な課題として捉えます。
現に部門が分断しているとは与件に書かれていません。ただし、印刷とデザインの担当者がそれぞれ案件を進めるだけでは、顧客について知ったことや別の媒体を使える可能性が、もう一方へ伝わらないおそれがあります。全社の経営者になった3代目には、部門を越えて相談や共同企画を行えるようにし、各部門の専門性を一つの提案へまとめる役割が求められます。
助言としては、 顧客課題や案件の情報を共有し、両部門で共同企画する 方法が考えられます。印刷担当者が知る顧客の要望と、デザイン担当者が持つ表現の可能性を持ち寄ることで、各部門だけでは作れない提案へつなげます。
紹介を待つだけでなく、顧客の課題を聞きに行く
さらに、 顧客の課題を聞き、能動的に提案する営業へ変える ことが必要です。限られた人員で取り組むためにも、既存の制作・調整能力を受注前の提案に活かし、得意とする顧客や案件へ働きかけます。
紹介や口コミには、先代までが築いた信頼を活用できる利点があります。一方、第10段落では 特に営業活動を行わず 、 売り上げにおいて目立った回復のない 状態が続いています。既存の信頼を土台にしつつ、こちらから課題を聞いて解決策を示す行動を加える必要があります。
両部門が連携しても、顧客に提案しなければ新しい価値は伝わりません。逆に営業の回数だけを増やしても、競合と違う提案がなければ選ばれにくいままです。社内の連携で提案内容を作ることと、その提案を顧客へ届けること を一体で考えると、二つの解決策がつながります。
長期的な課題と解決策を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
三代目が全社経営を引き継ぐには、デザイン部門を伸ばすだけでなく、二代目が築いた顧客・職人との関係や印刷工程を調整する経験も引き継ぐ必要があります。共同案件で二代目と三代目が関わり、関係と判断の仕方を伝える方法が考えられます。100字では「両部門の連携強化・待ち営業の改善・印刷事業の承継」を課題に置き、「承継するものと方法」「両部門の共同提案」「顧客へ働きかける営業」を対応させます。部門間の情報共有不足は将来のリスクとして捉え、現在の分断を断定しません。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「従業員間コミュニケーション」と経営ハンドブック「チームビルディング」は、部署を越えた従業員同士の情報移転・相互理解を促す仕組みと共通目標と一体感を持つチームをつくり、部署横断で多様な知恵を結ぶ考え方について解説しています。本問では、「部門間で顧客・技術情報を共有する」と「個人依存を組織能力へ変える」を2021年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2021年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 部門間で顧客・技術情報を共有する | 印刷とデザインの2部門を横断させる | 会議設置だけで終えない |
| 個人依存を組織能力へ変える | 2代目の人脈・調整知識を承継・標準化する | 3代目個人の営業努力だけにしない |
| 既存資源を組み合わせて能動的に開拓する | 印刷とウェブの複合提案で紹介・口コミ依存を脱する | 販促施策だけに狭めない |
類題は、2017年度事例I第5問 の事業承継期の組織的課題と、2024年度事例I第4問(設問2) の事業部間知識移転・評価制度です。共通点は、後継者交代を人の交代だけでなく、部門連携と組織能力の承継として捉えることです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「従業員間コミュニケーション」(部署を越えた従業員同士の情報移転・相互理解を促す仕組み) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「チームビルディング」(共通目標と一体感を持つチームをつくり、部署横断で多様な知恵を結ぶ考え方)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2021年度の与件事実を主根拠にします。

