Appearance
平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅰ 解答解説
目次は画面右上の「On this page」をタップしてください。
第 1 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、小規模ながら大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。わが国でも、近年、そうしたタイプの企業が増えつつあるが、その背景には、どのような経営環境の変化があると考えられるか。120 字以内で答えよ。
回答例(114 字)
技術革新と製品短命化で継続的な開発が必要となり、技術の高度化・複雑化で大企業や大学が外部の専門技術を使う共同開発を広げたこと。公的助成で小規模企業も開発資金を得やすく、博士等の専門人材を採用して研究能力を補う機会も広がったこと。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、研究開発型中小企業が増える背景にある経営環境の変化です。継続開発の必要性、外部の専門性を持ち寄る共同開発、それを支える資金と人材の獲得機会を120字で説明します。A社だけの強みの列挙にせず、小規模企業が研究開発を担いやすくなる条件として捉えます。
与件文から研究開発型企業を必要とする環境を読む
与件文のどこを見るか
- 第4段落: 大手電機メーカーの研究所や大学の研究機関との共同開発 とあります。企業・大学の知識と中小企業の加工技術を組み合わせる関係が、A社の経営基盤になっています。
- 第5段落: 技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い、 新しい技術や新しい製品を取引先に提案 とあります。既存製品を作り続けるだけでなく、継続的に新しい技術を事業へ取り込む必要があります。
- 第11段落: 必要な研究開発費を捻出すること、 大部分が公的助成金によって賄われている とあります。独創的な技術を持つ小企業でも、開発を進めるには資金面の支えが必要です。
技術を更新する必要性と、それを続ける制約を読む
第5段落の 「そのため」 は、技術革新の速さから新技術・新製品を提案する必要性へつなぎます。一方、第11段落の 「とはいえ」 は、研究開発を強めたくても、小企業には資金上の制約があることを示します。技術を持つだけでは参入・存続できず、連携と資金の環境が重要になると考えます。
必要な技術を外部と組み合わせ、小企業も開発に参加できる
技術革新が速いほど、自社だけでそろえる負担が増す
製品が短期間で入れ替わると、企業は次の製品に必要な技術を素早く用意しなければなりません。関連する知識をすべて自社だけで開発し続けるには、時間も人材も必要です。そこで、大企業が自前主義を見直し、大学や専門技術を持つ中小企業の力を活用する方向を、環境変化として考えます。
この 社外の技術や知識を組み合わせるオープンイノベーション が、独創的な技術を持つ小企業の事業機会につながります。A社の共同開発はその具体例ですが、答案では「社長に人脈があった」という個社の事情から一段広げ、こうした企業が求められる理由を説明します。
公的助成が、研究開発資金の制約を補う
共同開発の機会があっても、成果が出る前の人件費や試作費などを負担できなければ事業化へ進めません。売上・利益の小さな研究開発型企業では、この先行資金の確保が障害になります。A社が助成金を活用している事実を、 公的支援が小企業の研究開発への参加を支える という環境面へまとめます。
本問は企業が増える背景を問うため、公的助成制度の整備・拡充も答案の観点になります。特定制度の名称や拡充時期を与件にある事実として補うのではなく、資金制約を補う支援環境として説明します。
研究開発型中小企業が増える背景を120字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
技術革新・製品短命化で開発需要が増し、技術の高度化・複雑化によって企業や大学が専門性を持ち寄る共同開発が広がる流れを示します。その実行を支える条件として、公的助成による資金確保と、博士等の専門人材を採用して研究能力を補う機会を加えます。A社が実際に採用した事実を手掛かりに、研究開発型中小企業を取り巻く環境の変化として整理します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりについて解説しています。本問では、「自前主義の限界を認識する」と「外部知識を探索・獲得する」を2014年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。また、「2020年版中小企業白書 第2部第1章第6節」は、オープン・イノベーションによる正式な外部連携を補う資料として併記します。
| 公的資料の判断軸 | 当年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 自前主義の限界を認識する | 技術革新が速く製品ライフサイクルも短い | 連携を流行語として置かない |
| 外部知識を探索・獲得する | 大学・企業研究機関と共同開発する | 相手名だけでなく補完知識を書く |
| 吸収し事業化する | 社内研究室・博士人材が外部知識を製品へ転換 | 外部依存と吸収能力を混同しない |
類題は、2016年度事例I第1問(設問1)(技術と社員教育を関連事業へ展開する問題)、2025年度事例I第1問(既存技術・連携網を新事業資源として評価する問題)、2019年度事例I第3問(外部顧客の情報を新規事業へ取り込む問題)です。共通点は、外から得る資源と社内で価値化する能力を分けることです。本問では環境変化と公的助成制度が研究開発型中小企業の増加を後押しします。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり) / 中小企業庁「2020年版中小企業白書 第2部第1章第6節」(オープン・イノベーションによる正式な外部連携)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、創業期、大学や企業の研究機関の依頼に応じて製品を提供してきた。しかし、当時の製品の多くが A 社の主力製品に育たなかったのは、精密加工技術を用いた取引先の製品自体のライフサイクルが短かったこと以外に、どのような理由が考えられるか。100 字以内で答えよ。
回答例(98 字)
大学等の個別・単発依頼が中心で、継続的な市場需要につながりにくかったため。自社技術の用途開発や販路開拓を主導する力も弱く、創業期の限られた人員・資金では量産や継続開発へ資源を投入できなかったため。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、創業期の製品が主力製品へ育たなかった理由です。製品ライフサイクルの短さ以外という条件に従い、 単発依頼への対応から、技術を継続事業へ育てる力へ 視点を移して100字で説明します。
与件文から単発の開発と事業の柱の違いを読む
与件文のどこを見るか
- 第6段落: 大学などの研究機関から頼まれる単発的な仕事をひとりだけでこなす、 取引先の要望を超えるアイデアを提案 とあります。依頼の中で工夫はしていましたが、創業時の仕事は単発の案件が中心でした。
- 第7段落: なかなか主力製品に育たなかった とあります。個々の開発成果が、継続した売上の柱には結びついていません。
- 第8段落: A社社長のアイデアではじめて自社開発に着手した、 レーザー装置そのものの製品化にもつながり とあります。後の成長では、自ら企画した製品を関連する製品へ発展させています。
依頼を受ける側から、自分で事業を企画する側へ
第8段落の 「とは異なって」 は、研究機関の依頼に応じてきた製品と、社長の発案で始めた自主開発を対比しています。後に何が変わって柱ができたかを手掛かりに、創業期に足りなかった能力を考えます。
一件の注文に応える技術を、次の需要へ広げる必要があった
顧客の研究テーマに依存する単発の仕事
研究機関から頼まれた仕事を一件ずつこなす形では、どの製品をいつ開発するかが相手の依頼に左右されます。依頼された成果物を納めても、その技術を別の顧客や用途へ広げる仕組みがなければ、次の注文を自ら生み出しにくくなります。
依頼に応える開発と、市場のニーズを探して継続事業を企画すること を分けます。創業期はひとりで単発案件を担う体制でもあり、自社の技術をどこで継続的に使ってもらうかを考え、提案していく力が十分ではなかったと読めます。
アイデアの提案があっても、主力製品の育成とは同じではない
与件には、要望を超えるアイデアを提案して成長したとあります。したがって、「顧客に提案しなかった」とは読みません。目の前の依頼をより良くする提案はできても、共通する市場ニーズを捉え、継続的な需要へつなぐ製品企画には別の視点が必要です。
後のレーザー用放電管は自主開発から始まり、装置そのものへ展開しています。この変化から、 技術シーズを市場ニーズに結びつけ、事業の柱に育てる企画・提案力の不足 を創業期の課題としてまとめます。技術が低かったという診断ではなく、技術を事業として活かす範囲の問題です。
主力製品に育たなかった理由を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
単発の研究依頼は、継続して大量に売れる市場需要とは異なります。用途や販路を自社で広げる力が不足していたうえ、創業期の限られた人員・資金では、量産や開発の継続へ資源を投入しにくかったと考えられます。設問が除外する製品寿命の短さは繰り返さず、受注構造、市場開拓、経営資源の制約から主力化しにくい理由を説明します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」と経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための情報源」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりと顧客の嗜好や競合を調べ、展示会等で情報源とネットワークを広げる方法について解説しています。本問では、「顧客・市場情報を集める」と「技術を価値提案へ変える」を2014年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 当年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 顧客・市場情報を集める | 依頼内容だけでなく用途と継続需要を捉える | 受注実績を市場調査とみなさない |
| 技術を価値提案へ変える | 精密加工技術から自社製品を企画する | 技術力不足と誤読しない |
| 事業化プロセスを持つ | 研究・企画・営業・量産をつなぐ | 単発受注の増加だけを成長としない |
類題は、2013年度事例I第4問(顧客情報が新商品開発へ結び付かない理由を問う問題)、2019年度事例I第3問(顧客用途を収集し新事業へ活用する問題)、2025年度事例I第2問(顧客接点の声を企画へ還流する問題)です。共通点は、市場情報を技術・商品へ変換する能力です。本問では依頼対応型から自社提案型へ移れなかった創業期の弱さを答案にします。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための情報源」(顧客の嗜好や競合を調べ、展示会等で情報源とネットワークを広げる方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
2 度のターニング・ポイントを経て、A 社は安定的成長を確保することができるようになった。新しい事業の柱ができた結果、A 社にとって組織管理上の新たな課題が生じた。それは、どのような課題であると考えられるか。100 字以内で答えよ。
回答例(97 字)
量産の効率・品質と自主開発の柔軟性を両立し、既存生産と将来の研究へ人材・資金を配分する課題。管理者育成と権限委譲で社長への集中を減らし、部門間で顧客要求を共有して開発と製造へ反映する必要がある。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、二つの事業の柱ができた後の 組織管理上の課題 です。 OEM量産の効率・安定性と、自主開発の創造性をどう両立するか を、目標・資源配分・部門連携の観点から100字で説明します。
与件文から二つの柱が求める仕事の違いを読む
与件文のどこを見るか
- 第1段落: 売上のおよそ半分をOEM生産の理化学分析用試験管事業 とあります。量産によって売上を支える事業が大きな比重を占めています。
- 第2段落: 生産、研究開発を中心にした機能別組織、 製造装置の開発、レーザー装置の開発・販売 とあります。研究開発は自主製品だけでなく、生産設備の開発も担っています。
- 第8段落: はじめて自社開発に着手したレーザー用放電管事業 とあります。独自の企画・技術を新製品へ育てる事業が柱になっています。
- 第9段落: 製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成 とあります。OEMの柱では、一定の品質を効率よく作る仕組みが整えられています。
事業の柱ができるまでの道筋も異なる
第9段落の 「もっとも」 以降では、OEMの依頼を得てもすぐに利益へ結びつかず、製造改善が必要だった経緯が示されます。自主開発で独自製品を生み出すことと、量産品を良品として安定供給することでは、重点的に管理する仕事が異なります。
違いに合う管理と、全社の調整を同時に進める
同じ目標だけでは、どちらかの仕事が進みにくくなる
OEM量産では、品質や納期を守り、ムダを減らして安定的に生産することが重要です。一方、自主開発には、試作を重ね、新しい方法を探索する時間が必要になります。短期の効率だけで研究開発を評価すれば挑戦が進みにくくなり、探索だけを優先すれば量産を支える改善が後回しになるおそれがあります。
事業特性に応じて目標や管理の重点を分けること が課題です。これは量産に工夫が不要という意味ではなく、安定供給を支える改善と、次の製品を生む探索とで、成果の見方や時間軸が違うということです。
人材と資金を配分し、部門の知識を結びつける
小規模なA社では、人材・資金をすべての仕事へ十分に配れるわけではありません。研究開発部門も、内製設備の開発と新製品開発の両方を担っています。どちらにどの程度の人員・時間を使うか、全社で優先順位を調整する必要があります。
量産の現場で分かった問題を研究開発へ渡し、新技術を生産へ展開する連携も必要です。 仕事に応じた目標設定と資源配分を行いながら、部門間の連携を保つこと が、二つの柱を両立させる管理課題になります。設問は新しい組織名を尋ねていないので、事業部制への変更などを先に決めず、何を調整しにくくなったかを説明します。
新しい事業の柱が生む組織管理の課題を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。
新たな柱の成立によって、量産事業と研究開発という性質の異なる活動を同時に管理する必要が生じた。資源配分、管理者への権限委譲に加え、営業が得る顧客要求を研究・生産へ伝える部門間調整を説明する。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」は、商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点について解説しています。本問では、「異なる事業特性を識別する」と「責任と資源配分を設計する」を2014年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 当年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 異なる事業特性を識別する | OEM量産は効率、新事業は探索・創造を重視 | 二事業を同じ目標で管理しない |
| 責任と資源配分を設計する | 事業別目標と全社の人・資金配分を調整 | 組織名だけで課題を説明しない |
| 分化後の統合を確保する | 共通方針、部門間会議、人材交流で連携 | 分けるだけで全社最適になるとしない |
類題は、2016年度事例I第2問(設問2)(機能別組織へ横串を通し人材流動性を高める問題)、2018年度事例I第3問(技術別からプロセス別へ組織を改編する問題)、2025年度事例I第3問(事業特性から組織形態を選ぶ問題)です。共通点は、環境・事業と組織の適合を理由で説明することです。本問は量産と研究開発の分化・統合が中心です。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」(商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
A 社の主力製品である試験管の良品率は、製造設備を内製化した後、60%まで改善したが、その後しばらく大幅な改善は見られず横ばいで推移した。ところが近年、良品率が 60%から 90%へと大幅に改善している。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で答えよ。
回答例(99 字)
博士人材や研究室の専門知識を、中途採用の管理者や製造現場の経験と組み合わせ、加工不良の原因を分析したためと考えられる。内製設備や加工条件の改良と技能蓄積を重ね、高精度化した製品でも品質を安定させた。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、設備内製化で良品率が60%になった理由ではなく、 その後、60%から90%へ向上した要因 です。近年の人材と組織の変化に注目し、 専門知識・外部経験・現場ノウハウの統合による改善 を100字で説明します。
与件文から改善の段階と新しい知識の担い手を読む
与件文のどこを見るか
- 第2段落: 工学博士号をもつ社員、 製造装置の開発、 近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長 とあります。研究開発と生産の双方に、専門知識や外部経験を活かす人材がいます。
- 第9段落: 良品率は60%程度まで改善、 高い製造技術が求められる、 良品率は90%を超えるまでに向上 とあります。設備内製化後の60%とは別に、要求が厳しくなっても改善が進んでいます。
- 第10段落: 工学博士号をもった社員を5年ほど前から採用し社内に研究室を開設、 新たに大学院卒の博士号取得見込者を採用 とあります。近年の研究開発力強化が、さらに高度な課題を解く基盤になっています。
設備を内製化した後に加わった変化を探す
最初の改善は、外注設備・手作業中心の状態から、内製設備と自動化によって量産体制を整えた段階です。本問は、その後に良品率が横ばいになり、近年さらに向上した段階を問います。第10段落の 「さらに」 は博士人材の追加採用へつながり、研究開発力を継続して高めていることを示します。
新しい知識を、現場で使える改善へ変える
理論・外部経験・現場の経験を持ち寄る
高精度化が進むと、従来の経験だけでは解決しにくい問題も生じます。研究開発部門の専門知識は、材料や加工現象を理論から分析する力になります。中途採用の課長には社外での経験を現場へ取り入れる役割が期待でき、生産担当者には実際の設備や作業条件に関する知識があります。
専門知識、外部の知見、現場ノウハウを組み合わせること で、同じ問題を異なる角度から捉えられます。博士人材を採用したという事実だけでなく、その知識が製造のどこへ使われたかを考えることが大切です。
内製設備だからこそ、分析を改良へ戻せる
研究開発部門は製造装置の開発も担当しています。現場で起きる不具合や条件の違いを共有し、研究開発側で分析して設備・工程を改良し、現場で確かめる連携が考えられます。自社で設備を開発する能力を、より高い精度に対応する改善へ活かす流れです。
与件には具体的な共同改善の手順までは書かれていません。したがって、 近年の人材強化と良品率向上を、部門間の知識共有・設備と工程の改良で結ぶ推論 として説明します。品質要求が高まっても良品率が上がったことを、単に加工が容易になった結果とは捉えません。
良品率が60%から90%へ改善した要因を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。
良品率60%までは設備内製化・自動化の段階であり、90%への改善はその後の継続的な改良として考察する。博士人材、研究室、現場・管理者の知識統合は与件からの推論であり、具体的な不良解析の実施が明記された事実とは区別する。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「企画会議の技法」と経営ハンドブック「チームビルディング」は、多様な意見を商品開発・販路開拓のアイデアや改善へ生かす企画会議と共通目標と一体感を持つチームをつくり、部署横断で多様な知恵を結ぶ考え方について解説しています。本問では、「異質な知識を組み合わせる」と「共同で原因を検証する」を2014年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 当年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 異質な知識を組み合わせる | 研究者、中途課長、生産現場の知見を融合 | 一人の専門家だけを要因にしない |
| 共同で原因を検証する | 不良原因を工程・設備単位で分析 | 精神論の努力で説明しない |
| 知識を標準・設備へ定着させる | 内製設備と製造プロセスを改良 | 研修だけで良品率が上がるとしない |
類題は、2008年度事例I第4問(SWSと多能工化により工程責任・生産性を高める問題)、2017年度事例I第3問(供給能力と品質保証を競争力へ変える問題)、2020年度事例I第2問(暗黙知を標準化・システム化する問題)です。共通点は、現場知を再現可能な組織能力へ変える点です。本問は研究・外部・現場の知見が内製設備改善へ結び付いたことを説明します。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「企画会議の技法」(多様な意見を商品開発・販路開拓のアイデアや改善へ生かす企画会議) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「チームビルディング」(共通目標と一体感を持つチームをつくり、部署横断で多様な知恵を結ぶ考え方)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、若干名の博士号取得者や博士号取得見込者を採用している。採用した高度な専門知識をもつ人材を長期的に勤務させていくためには、どのような管理施策をとるべきか。中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(99 字)
専門に合う挑戦的な研究と裁量を与え、学会や外部研究者との交流を支援する。研究過程と長期成果を評価し専門職の処遇・キャリアへ反映する。経営者や現場との対話で研究目的と会社への貢献を共有し、孤立を防ぐ。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、採用した博士人材に 長期的に勤務してもらうための管理施策 です。 専門性を発揮できる仕事、正当に認められる将来像、学び続けられる環境 を組み合わせ、100字で助言します。
与件文から専門人材に提供できる機会と制約を読む
与件文のどこを見るか
- 第2段落: 研究室と開発室に計6名の社員、 新製品開発や新技術開発 とあります。専門人材は少人数の研究開発部門で、事業を支える役割を担います。
- 第10段落: 顧問を務める関連分野の専門家である大学教授や研究機関の研究者、 研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓する とあります。外部の専門家とのつながりと、新しい事業に挑戦する場があります。
- 第11段落: 売上も利益も少ない規模の小さな中小企業、 必要な研究開発費を捻出すること とあります。報酬や研究予算に制約がある中で、専門家として働き続ける魅力を整える必要があります。
高額報酬だけに頼らず、専門家として働く魅力を整える
第11段落の 「とはいえ」 は、研究開発を強化したくても費用を捻出する制約があることを示します。A社は新しい事業へ取り組む場や外部の研究者との関係を持っています。限られた資金の中でも、専門性を発揮し、成長できる条件を組み合わせることが重要です。
挑戦できる仕事と、専門性が報われる仕組みをそろえる
挑戦的なテーマと研究裁量を与える
専門知識を持って入社しても、それを使えない仕事ばかりでは、ここで働く意義を感じにくくなります。新製品や新技術など、本人の専門性が活きる挑戦的な研究テーマを設定し、進め方には研究裁量を持たせます。
裁量は研究の目的を無制限に任せることではありません。事業として目指す方向や予算・期限を共有したうえで、方法や検証の工夫を任せる考え方です。 会社への貢献と、専門家としての探究・達成感を結びつける ことが、長く働く意欲を支えます。
専門性を評価し、将来の役割を示す
研究開発は、短期の売上だけでは価値を測りにくい仕事です。技術の蓄積、難しい問題の解決、他部門への知識共有なども踏まえ、専門性の評価と処遇を整えます。管理職への昇進だけでなく、専門家として責任ある研究を担い続けられるキャリアパスを示すことも考えられます。
専門知識が組織から認められ、将来どのような役割へ進めるかが見えれば、A社で能力を深める意味が生まれます。 仕事の承認と専門職としての将来像 を、待遇への納得感と合わせて支えます。
外部交流を、学びと社内への還元につなげる
学会参加や大学・研究機関との交流は、新しい知識に触れ、専門家として刺激を受ける成長機会になります。得た知見を社内で共有し、新製品や工程の改善へ活かせるようにすれば、本人の成長とA社の研究開発力がともに高まります。
処遇・研究環境を整えて不満を減らすことと、挑戦・承認・成長で積極的な勤務理由を生むことを分けて組み合わせます。研究室を用意するだけでなく、そこでどんな仕事ができ、どのように評価され、何を学べるかまで整える助言です。
博士人材の長期勤務を支える施策を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
挑戦的な研究と裁量、学会等で成長できる機会、研究過程・長期成果を認める評価とキャリアを用意します。加えて、経営者や生産現場との対話・協働を通じ、研究が会社にどう役立つかを共有することが重要です。専門人材を孤立させず、本人の研究意欲と会社の目的を結ぶことを長期勤務の条件として説明します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「幹部のロイヤルティーを高めるには」は、幹部へ権限と責任を与え、自律的な行動を促す考え方について解説しています。本問では、「専門性を発揮できる仕事・配置」と「能力を認める評価とキャリア」を2014年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。また、「2024年版中小企業白書 第2部第1章第1節」は、高度専門人材の配置・能力発揮・キャリア形成を補う資料として併記します。
| 公的資料の判断軸 | 2014年度への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 専門性を発揮できる仕事・配置 | 挑戦的な研究テーマと研究裁量 | 一般社員向け福利厚生の列挙にしない |
| 能力を認める評価とキャリア | 専門性・研究成果を反映する評価、専門職キャリア | 短期成果だけで評価しない |
| 成長できる環境 | 学会参加、大学・研究機関との交流 | 外部連携自体を設問の主題にしない |
類題は、2016年度事例I第3問(業績低迷下でも有能人材に選ばれる人事施策)、2018年度事例I第4問(金銭・物理的報酬以外で技術者の挑戦・独創性を維持する施策)、2022年度事例I第2問(新規就農者を獲得・定着させる施策)です。共通点は、衛生要因で離職を抑えるだけでなく、対象人材に合う責任、承認、成長機会を設計することです。本問では高度専門人材の研究動機を優先します。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「幹部のロイヤルティーを高めるには」(幹部へ権限と責任を与え、自律的な行動を促す考え方) / 中小企業庁「2024年版中小企業白書 第2部第1章第1節」(高度専門人材の配置・能力発揮・キャリア形成)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2014年度の与件事実を主根拠にします。

