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平成 27 年度(2015 年度)事例 Ⅰ 解答解説 ​

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第 1 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

ゲートボールやグラウンドゴルフなど、A 社を支えてきたスポーツ用品事業の市場には、どのような特性があると考えられるか。100 字以内で述べよ。

回答例(100 字) ​

高齢化に伴うシニアの健康・交流・余暇需要を対象とする競技別のニッチ市場である。独自製品の開発や先行参入で高シェアを得られる一方、競技の流行や人気で需要が伸縮し、廉価な海外製品との価格競争も生じやすい。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、A社を支えてきたスポーツ用品事業の 市場の特性 です。 誰が使う市場か、需要はどう変わるか、どのような競争にさらされるか を整理し、100字で説明します。

与件文から顧客層と市場の移り変わりを読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第4段落: 台湾製や中国製の廉価なシャトルコックが輸入、 木製ラケットが金属フレームに代替 とあります。価格競争や製品の代替によって、既存の売上が大きく減った経験があります。
  • 第6段落: 1980年頃認知度が高まりつつあったゲートボールの市場、 ゲートボールの人気に陰り とあります。認知が広がって成長した市場でも、人気の低下によって次の事業を探す必要が生じています。
  • 第7段落: シニア層をターゲットにしたグラウンドゴルフ市場、 国内市場シェアの60%以上 とあります。顧客層を絞った市場で高いシェアを得ています。市場全体が大きいこととは分けて読みます。
成長の後に置かれた「しかし」に注目する ​

第6段落の 「しかし」 は、ゲートボール市場の伸長から人気の低下へ話を切り替えます。高齢化で対象となる人が増えても、特定の競技が選ばれ続けるとは限りません。人口構成だけでなく、競技の人気が需要を左右する市場だと考えます。

高いシェアを得ても、市場そのものの変化は避けられない ​

対象を絞った市場で、流行の影響を受ける ​

ゲートボールやグラウンドゴルフは、シニア層など特定の顧客層と競技の組み合わせに着目した市場です。A社はそのニーズを捉えて高いシェアを得ていますが、競技人口や購入者が限られる ニッチ市場 として捉えられます。

競技の人気が別の活動へ移れば、同じシニア層でも用品を買わなくなります。ゲートボールから次のスポーツ用品を模索した流れから、 流行に左右され、需要が成長から縮小へ転じやすい特性 を読み取れます。市場のライフサイクルの短さは、この変動性をまとめた表現であり、具体的な年数が示されているわけではありません。

需要の変化に、価格競争や代替の圧力も重なる ​

第4段落の 「しかし」 以降では、廉価な輸入品とラケット素材の変化が経営危機につながっています。人気のある市場でも、同種の商品が安く入ってきたり、別の素材の製品へ置き換わったりすれば、売上を失う可能性があります。

これはシャトルコック等で実際に起きた経験です。ゲートボールやグラウンドゴルフで同じ輸入競争が既に起きたとは断定せず、スポーツ用品市場で注意すべき 廉価品との価格競争にさらされやすい性質 として整理します。

スポーツ用品市場の特性を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

高齢化で健康・交流・余暇の需要が生まれる一方、競技ごとに市場が限定される点を示します。限定市場では独自製品や先行参入が高シェアにつながる余地がありますが、人気の変化で需要が伸縮し、廉価品の流入にも影響されます。市場の不安定さだけでなく、A社のような企業が参入して優位を築ける条件も残します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための基本方針」と経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための最新市場動向と特徴」は、限られた経営資源を顧客・商品・商圏・販路へ選択・集中する考え方と市場環境の変化を捉え、少量高付加価値や個別ニーズを成長機会へ取り込む視点について解説しています。本問では、「競争範囲を特定する」と「需要変動を読む」を2015年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸当年度の与件への当てはめ答案上の注意
競争範囲を特定するシニア層向け競技用品というニッチ市場小市場なら有利と決め付けない
需要変動を読むブーム後に人気が陰り、ライフサイクルが短い成長局面だけを切り取らない
競合圧力を確認する台湾・中国製廉価品の流入価格以外の差別化条件も考える

類題は、2018年度事例I第1問(ニッチ市場へ絞り技術で差別化する戦略を選ぶ問題)、2017年度事例I第4問(地元市場から全国市場へ広げるリスクを問う問題)、2023年度事例I第2問(標的と差別化の対応を問う問題)です。共通点は、競争範囲と優位の源泉を分けることです。本問はニッチ性に加え、流行・価格競争による不安定性を市場特性として示します。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための基本方針」(限られた経営資源を顧客・商品・商圏・販路へ選択・集中する考え方) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための最新市場動向と特徴」(市場環境の変化を捉え、少量高付加価値や個別ニーズを成長機会へ取り込む視点)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。

第 2 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社は、当初、新しい分野のプラスチック成形事業を社内で行っていたが、その後、関連会社を設立し移管している。その理由として、どのようなことが考えられるか。120 字以内で述べよ。

回答例(120 字) ​

既存の消費者向け見込販売と、法人の注文仕様に応える成形事業では、必要な文化や管理が異なるため。従来の成功体験や慣行から切り離し、専門人材・設備を集め技術開発と顧客対応へ集中する。責任権限と採算を明確にし、迅速な意思決定で早期成長を図るため。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、新しい成形事業を社内から関連会社へ移した理由です。 既存事業と新事業の特性の違い→独立した運営の必要性→成長を促す効果 の順で、120字にまとめます。

与件文から技術だけでは捉えられない事業の違いを読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第4段落: ブロー成形技術、 その成形技術の高度化 とあります。従来は小規模だった事業の技術が、再生を支える核になっています。
  • 第5段落: 楽器メーカーから楽器収納用ケースの製造依頼、 自社で開発し特許まで取得した新しい成形技術、 事業に対する考え方そのものが異なっていた、 関連会社として独立させる とあります。自社ブランドで商品を売る事業とは異なる顧客・仕事に合わせて、組織を分けています。
新技術を使えることと、従来どおりに運営できることは別 ​

第5段落の 「とはいえ」 は、新しい成形技術を活かせる一方、事業の考え方が既存事業と異なることを示します。続く 「そこで」 が関連会社化へつながるため、技術の新しさだけでなく、仕事の進め方の違いから分社化の理由を考えます。

相手の要求に応える事業へ、責任と判断の仕組みを合わせる ​

自社ブランドで売る仕事と、法人の注文に応える仕事 ​

バドミントン用品では、A社が自社ブランドの商品を市場へ販売してきました。一方、楽器収納用ケースは、楽器メーカーから受けた製造依頼です。注文者が求める形状・品質・納期などを確認し、技術的にどう実現するかを詰める仕事になります。

消費者に選ばれる自社商品を売る事業と、法人顧客の要求に応える受注事業 では、営業の相手も、判断の基準も異なります。従来の販売経験だけでなく、顧客との技術的なすり合わせや、案件ごとの採算を判断する力が重要になります。

異なる判断基準を持つ事業を、独立して育てる ​

同じ会社の中で既存事業のやり方を一律に当てはめると、新事業で必要な投資や顧客対応が進みにくくなるおそれがあります。関連会社へ分けることで、 新事業の経営責任と意思決定の範囲を明確にする ことができます。顧客要求に応じる技術力や貢献を重視し、必要な人材・設備へ資源を向けやすくする狙いです。

既存の文化や年功的な扱いに一律に縛られず、事業に合う運営を目指すと考えます。ただし、後段ではグループの人事制度がほぼ年功ベースとされており、関連会社で実際に成果主義へ変更したとは読めません。制度変更の実績ではなく、異質な事業を育てる独立性の確保として説明します。

関連会社へ移管した理由を120字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

法人の注文仕様へ対応する成形事業は、自社製品を消費者へ売る既存事業と成功要因が異なります。関連会社化によって従来の慣行に縛られない文化・管理を整え、成形技術の専門人材や設備を集中できます。責任権限・採算を独立させ、顧客への判断と技術開発を迅速にする点までつなぎます。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

経済産業省の「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」は、自社組織の限界により事業化しにくい技術を別法人で事業化する考え方を整理しています。対象・規模は本問と異なりますが、事業特性、独立後の権限・責任、親会社との関係を検討する判断軸として使えます。

公的資料の判断軸2015年度への当てはめ答案上の注意
既存組織で事業化する限界を特定する自社ブランド型事業と受注型BtoB事業の考え方が異なる技術が新しいから分社化、と短絡しない
独立主体の権限・責任を設計する関連会社へ損益責任と迅速な意思決定を持たせる法人格の設置自体を効果にしない
親会社との関係を残す成形技術・資金・人材のシナジーと統制完全に切り離す一般論にしない

類題は、2016年度事例I第2問(設問2)(機能別組織へ横串を通し、異なる事業間を調整する理由)、2019年度事例I第5問(現組織と事業特性の適合から組織再編を見送る理由)、2025年度事例I第3問(複数事業の特性差から恒常的な組織体制を選ぶ問題)です。共通点は、組織名を先に決めず、事業特性、必要な自律性、部門間調整を比較することです。本問だけは社内調整では足りず、関連会社化まで行った理由を問います。

出典:経済産業省「起業家主導型カーブアウト実践のガイダンス」公表ページ

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2015年度の与件事実を主根拠にします。

第 3 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社および関連会社を含めた企業グループで、大型成形技術の導入や技術開発などによって、プラスチック製容器製造事業の売上が 60%を占めるようになった。そのことは、今後の経営に、どのような課題を生み出す可能性があると考えられるか。中小企業診断士として、100 字以内で述べよ。

回答例(100 字) ​

受注製造への依存で顧客の需要・取引条件が全社業績を左右する。大型設備・技術開発の投資採算を確保し、健康サービス等へ人材・資金も配分する必要がある。関連会社の権限と情報共有を整え、全社統括も課題になる。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、容器製造がグループ売上の60%を占めることで、今後生じうる経営課題です。 特定事業への依存と、受注型事業に偏る収益・成長の制約 を100字で説明します。

与件文から成長を支えた事業への依存を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第1段落: グループ全体でみた売上構成比、 プラスチック製容器製造が60%、 業績もほぼ横ばい、 決して高い利益を上げているとはいえない とあります。対象は関連会社を含むグループであり、主力事業の大きさと全体の収益・成長を重ねて考えます。
  • 第5段落: 楽器メーカーから楽器収納用ケースの製造依頼 とあります。顧客の注文に応じて製造する事業として始まっています。
  • 第7段落: 成形技術の高度化や工場増築などの投資、 バスタブなどの大型成形製品の注文 とあります。技術と設備への投資が受注範囲を広げ、グループの成長を支えています。
成功した事業でも、比重が大きくなると全社への影響が増す ​

第7段落の 「もっとも」 は、スポーツ用品の人気低下に対し、成形事業の拡大がグループを支えていたことを示します。成形技術と設備投資は再生の強みですが、その事業が売上の大半を占めると、受注や採算の変化が全体を大きく左右します。

受注の変動と、利益を伸ばす力の両面を考える ​

顧客側の変化を、グループ全体が受けやすくなる ​

容器製造は法人からの注文に対応する事業です。取引先の販売や生産が落ち込めば、A社側の技術が優れていても受注が減る可能性があります。売上の60%をこの事業が占めるため、 特定事業の需要変動がグループ経営へ大きく波及するリスク になります。

与件から特定の一社への売上集中までは分かりません。顧客名や依存率を補わず、事業の比重が大きいほど取引先・業界の変動を受けやすい、という可能性を説明します。A社単体では自動車部品が約60%ですが、本問の容器製造60%とは集計範囲が異なります。

受注を増やしても、利益や成長を十分に得られるとは限らない ​

顧客の注文を基に生産する事業では、取引条件や価格を自社だけで決められません。発注者の条件を受け入れる比重が高まれば、売上を確保しても利益が伸びにくいおそれがあります。 受注側の価格交渉力の制約が、グループ全体の収益性を抑える可能性 を考えます。

現状は業績が横ばいで、利益も高くありません。大きな事業が伸び悩めば、他事業の成長だけでは全体を押し上げにくくなります。設備・人材をどの事業へ振り向けるかという視点も踏まえ、依存による不安定さと成長停滞を結びつけます。実際に値下げを強要されたという出来事は付け加えません。

容器製造への依存が生む課題を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

受注製造への依存が高まると顧客の需要・取引条件の変化が全社へ波及します。同時に、大型設備や技術開発の負担に見合う収益の確保、健康サービス等の成長領域への人材・資金配分、拡大する関連会社の統括が課題になります。依存リスク、投資と事業構成、グループ管理を短く対応させ、まだ起きていない問題を断定せず可能性として示します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「多角化の方法」は、多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面について解説しています。本問では、「売上構成と依存先を確認する」と「依存が交渉力・収益へ及ぼす影響を見る」を2015年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。また、「2020年版中小企業白書 第2部第3章第3節」は、取引依存度と価格転嫁・交渉力の実態を補う資料として併記します。

公的資料の判断軸2015年度への当てはめ答案上の注意
売上構成と依存先を確認する容器製造がグループ売上の60%売上比率が高いことだけを悪としない
依存が交渉力・収益へ及ぼす影響を見る受注生産で利益が高くなく、業績も横ばい取引先名や値下げ要求を創作しない
資源配分を全社で点検する人材・設備が容器製造へ固定され、他事業の成長余地を狭める直ちに撤退すべきと決めつけない

類題は、2008年度事例I第2問(売上の80%超を占める航空業界の不振とコスト削減圧力を問う問題)、2016年度事例I第1問(設問2)(関連性の低い多角化によるシナジー不足・資源分散を問う問題)、2021年度事例I第3問(事業ドメイン拡大の利点と資源分散等の欠点を比較する問題)です。共通点は、事業数や売上比率だけでなく、外部変動、交渉力、シナジー、資源配分まで見てポートフォリオを評価することです。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「多角化の方法」(多角化による収益拡大・リスク分散・シナジーと、コスト・非効率化の両面) / 中小企業庁「2020年版中小企業白書 第2部第3章第3節」(取引依存度と価格転嫁・交渉力の実態)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2015年度の与件事実を主根拠にします。

第 4 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社および関連会社を含めた企業グループで、成果主義に基づく賃金制度を、あえて導入していない理由として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で述べよ。

回答例(99 字) ​

製造とサービスでは成果の現れ方や期間が異なり、共通尺度で個人の貢献を公平に測りにくいため。短期の個人間競争を避け、部門間の協力や長期的な技術継承を促し、危機を乗り越えた従業員の一体感を維持するため。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、グループが成果主義に基づく賃金制度をあえて導入していない理由です。 個人の成果を測る難しさと、協働・技術伝承・一体感を守る必要性 を、A社の仕事と歴史に結びつけて100字で説明します。

与件文から仕事の特性と雇用への姿勢を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第4段落: 約40名の従業員を路頭に迷わせずに済んだ、 その成形技術の高度化 とあります。雇用を守って危機を乗り越え、技術の積み重ねを再生へつないできた経緯があります。
  • 第8段落: 地元自治体や大学との連携、 シニア向け事業で培ってきた知識・経験 とあります。技術やサービスの成果は、連携や長期に蓄積した知識にも支えられています。
  • 第9段落: 従業員のほとんどが正規社員、 ボーナスなどでわずかに業績給的要素、 ほぼ年功ベースで運用 とあります。成果を全く見ないのではなく、基本は年功としつつ一部に業績を反映しています。
危機を乗り越えた技術と人の関係を見る ​

第4段落の 「そして」 は、事業をつないだ成形技術を高度化することが再生へ結びついたと示します。目先の売上だけでなく、技術を蓄積し、次の仕事へ引き継ぐことがA社の存続を支えてきました。この仕事の特性と、社員と共に危機を越えてきた経緯から、制度を選ぶ理由を考えます。

個人の競争よりも、共同で成果を生む関係を守る ​

成果を個人へ切り分けにくい仕事がある ​

成形技術を高めて受注につなぐには、開発、製造、営業などの働きが組み合わさります。サービス開発にも、これまでの知識・経験や外部との連携が使われます。こうした成果を短期の数字だけで測ると、誰がどれだけ貢献したかを公正に切り分けにくくなります。

共同の成果を無理に個人評価へ割り振ることによる不公平感 が、協力を難しくするおそれがあります。制度の一般的な長所・短所を述べるのでなく、共同作業や長期蓄積を要するA社の仕事に合うかを考えます。

知識を教え合い、長く働く関係を維持する ​

個人の短期成果ばかりが報われると、後輩へ技術を教えたり、他部門の仕事を支援したりする行動が評価されにくくなる可能性があります。自分だけの数字を優先すれば、知識を共有して全体の力を高める働きが弱まります。

A社は雇用を守りながら経営危機を乗り越え、現在も正規社員が大半です。 技術伝承と従業員の一体感を維持し、長期的に能力を蓄積すること を重視していると捉えられます。賞与にはわずかな業績給的要素があるので、成果の反映自体を否定するのでなく、過度な個人間競争を招く全面的な制度変更を避ける理由としてまとめます。

成果主義賃金をあえて導入しない理由を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の要求に沿って組み立てることです。

製造とサービスでは成果の内容や実現期間が異なるため、一律の短期業績評価では個人の貢献を捉えにくいと考えられる。第1文で測定の難しさ、第2文で協力・技術継承・一体感を守る意図を説明する。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「チームビルディング」と経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」は、共通目標と一体感を持つチームをつくり、部署横断で多様な知恵を結ぶ考え方と理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法について解説しています。本問では、「成果の単位を見極める」と「望ましい行動を促す」を2015年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸当年度の与件への当てはめ答案上の注意
成果の単位を見極める技術・事業成果は部門・会社間の協働で生まれる個人へ無理に分解しない
望ましい行動を促す知識共有、技術伝承、助け合いを評価短期売上だけを指標にしない
公正と一体感を守る基準説明と対話で納得性を確保年功制度を無条件に正当化しない

類題は、2020年度事例I第4問(企業グループで公平な評価・人事制度を設計する問題)、2014年度事例I第5問(専門人材の貢献・成長を処遇と職務で支える問題)、2018年度事例I第4問(金銭以外の動機づけを設計する問題)です。共通点は、制度を戦略・仕事・人材へ適合させることです。本問は個人成果競争が協働と技術伝承を損なう懸念が不採用理由です。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「チームビルディング」(共通目標と一体感を持つチームをつくり、部署横断で多様な知恵を結ぶ考え方) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」(理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。

第 5 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社の健康ソリューション事業では、スポーツ関連製品の製造・販売だけではなく、体力測定診断プログラムや認知症予防ツールなどのサービス事業も手がけている。そうしたサービス事業をさらに拡大させていくうえで、どのような点に留意して組織文化の変革や人材育成を進めていくべきか。中小企業診断士として、100 字以内で助言せよ。

回答例(100 字) ​

製品中心から利用者の健康課題を解く文化へ変え、健康・福祉の知識や相談力を教育・採用で確保する。大学・自治体と連携して専門知識を共有し、部門横断の提案・試行を評価して協働を促し、サービスを継続改善する。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、健康ソリューションのサービス事業を拡大するための 組織文化の変革と人材育成 です。製品を作る力を土台に、 顧客の課題からサービスを考える文化と、それを実行する専門能力 を100字で助言します。

与件文からモノづくりを越えて提供する価値を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第7段落: 成形技術の高度化や工場増築などの投資 とあります。製品を作る技術・設備を高めて成長してきた背景を確認します。
  • 第8段落: 地元自治体や大学との連携、 知識・経験、そしてそれにかかわるネットワーク、 シニア層にターゲットを絞ることなく、 体力測定診断プログラムなどのソフト開発 とあります。既存の経験と外部のつながりを使いながら、対象顧客と提供内容を広げています。
既存の経験を使いながら、事業の捉え方を広げる ​

第8段落の 「さらに」 は、福祉分野への参入に続き、蓄積した知識・経験・ネットワークを使って事業全体を健康ソリューションへ位置づける流れを示します。用品を製造して売るだけでなく、利用者の健康に関する困り事へ、プログラムやサービスで応える方向です。

作れるものを起点にする発想から、利用者の課題を起点にする発想へ ​

顧客の声を、部門をまたぐ試行と改善へつなぐ ​

例えば、体力測定なら測定する道具の性能だけでなく、結果をどう理解し、次の行動へつなげるかも利用者の価値になります。施設で使う場合には、運用する職員の負担や利用者への説明のしやすさも確認する必要があります。 何を作れるかだけでなく、誰のどんな課題を解くか を最初に考える文化へ広げます。

営業やサービスの担当者が得た声を企画・開発へ渡し、部門をまたいで小さく試し、反応を見て改善する場を設ける方法が考えられます。挑戦や学習を評価し、製品を完成させて終わりではなく、使われ方を確かめて改善する行動を促します。 顧客起点のサービス創出を、日常の仕事と評価へ組み込む ことが文化の変革になります。

サービスを企画し、届け、改善できる人材を育てる ​

技術力に加えて、ニーズを聞き取る力、サービス内容を設計する力、対象顧客へ価値を伝えるマーケティング能力が必要です。自治体・大学との連携も学習の場として活かし、実際の企画・試行を通じて社員の専門性を高めます。不足する経験を持つ中途人材の採用も組み合わせ、社内へ知識を共有できるようにします。

対象はシニア層だけではないため、過去の経験がそのまま通用すると思い込まず、新しい利用者の要望も確かめます。製造技術を捨てるのではなく、顧客理解とサービス専門能力を加える方向です。既に連携やサービス開発は始まっているので、それを組織全体で継続できる体制へ育てる助言にします。

サービス拡大に必要な文化と人材を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

判断の起点を製品の性能から利用者の健康課題へ移します。その実行には健康・福祉の知識や相談対応等の能力が必要で、教育・採用に加え、大学や自治体との連携で得た知識を社内へ共有する方法が考えられます。提案と試行、部門横断の協働を評価し、学んだ知識をサービス改善へ結ぶ仕組みまで示します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」と経営ハンドブック「顧客とのコミュニケーションの仕組み」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりと顧客接点から要望を集め、製品改善・信頼・従業員の意欲へつなげる仕組みについて解説しています。本問では、「顧客課題を起点にする」と「部門知識を統合する」を2015年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸当年度の与件への当てはめ答案上の注意
顧客課題を起点にする健康維持・認知症予防の課題を把握製品機能の追加だけにしない
部門知識を統合する製造、ソフト、販売を横断してサービスを試作文化の掛け声で終えない
不足能力を補う企画・マーケ・顧客支援人材を育成・採用人材増員だけで目的を示さない

類題は、2019年度事例I第4問(共有した事業領域・目標を営業行動へ反映する問題)、2023年度事例I第2問(顧客価値を起点に差別化する問題)、2025年度事例I第2問(顧客接点から得た声を事業改善へ戻す問題)です。共通点は、市場志向を組織行動へ変えることです。本問は製造中心文化からサービス創出文化への転換と人材施策を一体で答えます。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「顧客とのコミュニケーションの仕組み」(顧客接点から要望を集め、製品改善・信頼・従業員の意欲へつなげる仕組み)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。

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