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平成 29 年度(2017 年度)事例 Ⅰ 解答解説 ​

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第 1 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

景気低迷の中で、一度市場から消えた主力商品を A 社が再び人気商品にさせた最大の要因は、どのような点にあると考えられるか。100 字以内で答えよ。

回答例(97 字) ​

最大の要因は、地元で支持された銘菓のブランドを継承したことである。営業経験と信用のある社長が取引先の販売支援を得て、主力商品に資源を集中し、かつての品質・食感を復活させて顧客の期待に応えたため。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、一度市場から消えた商品が再び人気を得た 最大の要因 です。再建時の取り組みを同じ重さで並べず、売上を生んだ中心に 受け継いだブランドと、それを支える顧客・取引先 を置きます。

与件文から再人気化を支えた関係を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第3段落: 現在の主力商品の認知度が地元で高かった、 贔屓筋がその復活を嘆願 とあります。会社の経営が破綻しても、商品を買いたいという支持は残っていました。
  • 第4段落: その商標権、 販売支援の継続を条件に商品の存続を強く求められた とあります。商品の名前を引き継ぐ権利と、販売を支える取引先との関係を確保しています。
  • 第5段落: 主力商品だけに絞って、商品名を冠にした新会社 とあります。知名度のある商品に経営資源を集中し、従来の商品とのつながりを示しています。
  • 第6段落: 創業直後から一定水準の売り上げを確保 とあります。設備が十分に整う前から売上が成立したことが、最大要因を判断する手掛かりです。
会社の破綻と、商品の支持を分ける ​

第3段落の 「それに対して」 は、過剰投資で事業を続けられなくなったX社の事情と、商品の復活を願う顧客の動きを対比しています。失われたのは事業を続ける会社の体制であり、商品の魅力や地元での信頼まで消えたわけではありません。この違いが、ゼロから新商品を売り出す場合との大きな差です。

商品を知っている人と、再び届ける経路が残っていた ​

ブランドを、買いたいという需要へつなぐ ​

地元で名前が知られているだけでなく、贔屓筋は復活を嘆願しています。ここには、再び売られれば手に取りたいという具体的な支持が読み取れます。商標権を取得し、商品名を新会社の名前にも使うことで、A社はその支持を自社の商品へつなげられました。認知度と愛着を伴うブランドが、再出発の顧客基盤になったと捉えます。

取引先の支援が、支持を売上へ変える ​

買いたい人がいても、商品を届ける売り場がなければ販売は広がりません。営業経験のある社長に対し、主要取引先は販売支援の継続を約束していました。したがって、ブランドだけでなく、 顧客の需要と販売先との関係を引き継げたこと が再人気化を支えたと説明できます。

第6段落の 「ものの」 は、製造設備の課題があっても創業直後から売上を確保できたことを示します。後の自動化・新工場は成長を支える要素ですが、再出発時から売れた最大要因を説明する際は、既存のブランドと周囲の支持を先に置きます。

再人気化の最大要因を100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

最大要因は地元に残る銘菓への支持に置きます。その支持を販売へ結ぶ仕組みとして、社長の営業経験・信用による販路の継承、人気ある主力商品への資源集中、昔の品質・食感の再現を続けます。品質の復活には年月がかかったため、事業再開直後に全て達成したとは書かず、支持を受け継いで再人気化へ至る過程として説明します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「コーポレートブランディング」は、企業の存在意義とブランドコンセプトを明確にし、継続的に発信・維持する手順について解説しています。本問では、「ブランド資産を識別する」と「支持者の需要を確認する」を2017年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸当年度の与件への当てはめ答案上の注意
ブランド資産を識別するX社時代からの高い認知度と商品イメージ社名だけをブランドとしない
支持者の需要を確認する贔屓筋が商品復活を要望潜在需要を社内努力と混同しない
補完関係を引き継ぐ取引先が販売支援を継続商標取得だけを成功要因にしない

類題は、2009年度事例I第1問(企業ごとの資源・組織能力を比較する問題)、2023年度事例I第1問(統合前の強み・弱みを内部資源から評価する問題)、2025年度事例I第1問(技術・連携網など事業資源をSWOTで整理する問題)です。共通点は、見えにくい無形資源を具体的事実で評価することです。本問ではブランドと顧客・取引先の支援が再成長の最大要因です。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「コーポレートブランディング」(企業の存在意義とブランドコンセプトを明確にし、継続的に発信・維持する手順)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。

第 2 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社の正規社員数は、事業規模が同じ同業他社と比して少人数である。少人数の正規社員での運営を可能にしている A 社の経営体制には、どのような特徴があるのか。100 字以内で答えよ。

回答例(99 字) ​

主力商品を3種類に絞り、自社店舗を持たず卸売中心として業務を単純化している。さらに製造工程を自動化し、正社員を基幹業務、非正規社員を包装・倉庫等の補助業務へ配置する分業体制で、効率的に運営している。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、 少人数の正規社員で運営できる経営体制 です。商品・販路を絞って業務を減らすことと、自動化・役割分担で業務を効率よく担うことを組み合わせ、100字で説明します。

与件文から業務の範囲と担い手を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第1段落: 3 種類の主力商品 とあります。扱う主力商品を絞っているため、多品種を抱える場合に比べ、管理する業務を単純化しやすい体制です。
  • 第2段落: 自社店舗による直接販売は行っていない、 製造ラインの最終工程である箱詰めや包装、倉庫管理などの補助業務 とあります。店頭販売を自社で抱えず、製造等の基幹業務と非正規社員の補助業務を分けています。
  • 第5段落: 製造工程を大幅に変更し、自動化によって効率性を高められるようになった とあります。人手による工程を見直し、製造の効率を高めています。

抱える業務を絞り、正規社員を基幹業務へ集中させる ​

商品と販路を絞ると、必要な管理も絞れる ​

品目が増えるほど、原材料や製造手順、在庫の種類も増えます。A社は主力商品を3種類に絞ることで、こうした管理の複雑さを抑えやすくしています。第2段落の 「また」 以降では、製造に加えて営業の業務範囲が示されます。自社店舗を持たないため、店舗ごとの接客や店頭人員の管理を抱えず、営業部門は取引先との折衝や販路開拓、配送・在庫管理を担います。 商品と販売方法の絞り込みが、正規社員に必要な仕事の範囲を小さくする と考えます。

自動化と雇用区分間の分業を組み合わせる ​

製造では自動化によって手作業の負担を減らし、正規社員は製造の主要工程や生産管理を担当しています。箱詰め・包装・倉庫管理などは非正規社員が補助するため、正規社員だけですべての作業を担う必要がありません。総務も社長の下で少人数が担当し、製造・営業・総務に役割を分けています。

ここで大切なのは、社員全体が少ないのではなく、正規社員の人数を抑えて運営していることです。約70名の非正規社員のうち毎日出社する約30名と交代勤務の約40名を組み合わせており、非正規社員の活用も体制の一部です。単に「機能別組織だから効率的」とせず、何を減らし、誰が何を担うかまで具体化します。

少人数運営を可能にする体制を100字で答案化する ​

答案の骨格は、 商品・販売業務の絞り込み+製造の自動化+正規・非正規社員の分業→効率的運営 です。「3種類」「自社店舗を持たない」で業務範囲を示し、「正規社員は基幹業務、非正規社員は包装等の補助業務」と役割を肉付けします。

部署ごとの人数を列挙すると、体制の説明に使う字数が減ります。100字では 業務を単純化する仕組みと、担い手を分ける仕組み を残し、少人数運営につながる理由が読める形にまとめましょう。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための基本方針」は、限られた経営資源を顧客・商品・商圏・販路へ選択・集中する考え方について解説しています。本問では、「商品・販路を絞る」と「定型工程を自動化する」を2017年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸当年度の与件への当てはめ答案上の注意
商品・販路を絞る主力3商品、卸売中心で自社店舗なし売上規模だけで効率を説明しない
定型工程を自動化する製造設備の更新で効率性を向上設備導入だけを体制としない
役割を雇用区分で分ける正規は基幹、非正規は包装・倉庫等非正規活用を低コストだけで語らない

類題は、2013年度事例I第1問(設問2)(外注・非正規活用とコア業務集中で少数精鋭を維持する問題)、2021年度事例I第1問(外部資源活用と選択・集中を評価する問題)、2008年度事例I第4問(工程・役割設計で生産性を高める問題)です。共通点は、少人数運営を可能にする複数の設計を束で示すことです。本問では商品・販路の絞り込み、自動化、分業の三つを答案にします。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための基本方針」(限られた経営資源を顧客・商品・商圏・販路へ選択・集中する考え方)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。

第 3 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社が工業団地に移転し操業したことによって、どのような戦略的メリットを生み出したと考えられるか。100 字以内で答えよ。

回答例(100 字) ​

日産5万個の量産体制で需要増への安定供給を可能にし、HACCP準拠と従来の品質・食感の確保で取引先の信頼を高めた。自動化で生産効率とコスト競争力を高め、県外大口受注や全国販路の拡大を支える基盤を得た。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、工業団地への移転が生んだ 戦略的メリット です。工場が広くなったという設備の変化から一段進め、 供給能力と品質への信頼が、市場拡大をどう支えるか を100字で説明します。

与件文から新工場で得た能力を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第5段落: 自動化によって効率性を高められるようになった とあります。新工場の完成により、従来の人手中心の製造を効率化できています。
  • 第6段落: HACCP に準拠、 かつての商品に勝るとも劣らない品質や食感、 日産 50,000 個体制 とあります。品質・食感を保ちながら供給能力を拡大し、食品の安全性を管理する基盤も整えています。
  • 第7段落: 全国市場への進出、 売上高 30 億円というビジョン とあります。生産基盤の整備を、これから目指す市場拡大へ結びつけて評価します。

生産基盤の強化を、取引を広げる力へつなぐ ​

安定供給できる規模が、大きな取引を支える ​

販路を広げると、これまでより多くの商品を継続的に届ける必要があります。受注しても供給が追いつかなければ、売上機会を逃すだけでなく、取引先からの信頼も損ないます。自動化と日産5万個の体制は、 需要の増加や大口の注文に対応できる生産基盤 と捉えられます。設備の規模そのものより、販売拡大を供給面から支えられる点に戦略的な意味があります。

数量を増やしても、銘菓の信頼を保つ ​

第6段落の 「また」 以降では、移転先だけでなく、新工場で実現した品質・安全性・生産量が示されます。A社の商品は地元で支持された銘菓であり、数量を増やしても品質や食感を損なえば、その強みが失われます。従来に劣らない品質・食感を確保し、HACCPに準拠した管理を行うことは、顧客や取引先が安心して選べる根拠になります。

このため、 安定供給できる能力と、品質・安全性への信頼 の両方が、県外の大口受注や全国販路の開拓を支えると考えられます。首都圏出店はまだ実現していないので、全国展開が完了した成果ではなく、実現に向けて使える競争力として説明します。

工場移転の戦略的メリットを100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

移転の効果を、量産能力、品質・安全性、生産効率の三つに整理します。日産5万個体制は需要増への供給力、HACCP準拠と品質・食感の確保は顧客の信頼、自動化は生産性とコスト面の競争力へつながります。設備の説明で終えず、それらが大口受注や広域の販路開拓を支える戦略的基盤になったことを残します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

厚生労働省は、HACCPを、原材料の入荷から出荷までの危害要因を把握し、重要工程を継続管理して製品の安全性を確保する衛生管理手法と説明しています。2023年版中小企業白書は、設備投資の優先目的が維持更新から生産能力拡大・製品サービスの質的向上へ移る傾向を示しています。

公的資料の判断軸2017年度への当てはめ答案上の注意
生産能力を需要へ対応させる日産50,000個体制で需要増と県外大口受注へ安定供給「工場が広くなった」で終えない
重要工程を管理して安全性を確保するHACCP準拠で食品の品質・安全性への信頼を高めるHACCPを単なる認証名として列挙しない
量と質を競争優位へ変える県外大口受注・全国販路開拓を可能にし、売上拡大を支える与件にない教育施策を成果として書かない

類題は、2008年度事例I第4問(SWSによる生産性向上の可能性と、機能させる条件を問う問題)、2014年度事例I第4問(設備内製化後に良品率が60%から90%へ改善した要因を問う問題)です。共通点は、設備や方式の名称だけでなく、生産能力、標準化・運用、品質、顧客への効果を因果でつなぐことです。本問は特に移転後に得た戦略的メリットを答えます。

出典:厚生労働省「HACCPとは?」 / 中小企業庁「2023年版中小企業白書 第1部第1章第2節 中小企業・小規模事業者の現状」

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2017年度の与件事実を主根拠にします。

第 4 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

A 社は、全国市場に拡大することでビジョンの達成を模索しているが、それを進めていく上で障害となるリスクの可能性について、中小企業診断士の立場で助言せよ。100 字以内で答えよ。

回答例(99 字) ​

地元のブランドが全国で通用せず需要が伸びない恐れがある。商品開発・営業人材や管理者の育成が追いつかず、経営陣への負担集中や品質低下を招く。また、過剰な出店・設備投資で借入と固定費が膨らむ危険がある。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、全国市場へ拡大するうえで障害となる リスクの可能性 です。地元での強みが全国でも通用するかという市場面と、全国展開を担う力が足りるかという人材面を分け、100字で説明します。

与件文から現在の成功と全国展開の隔たりを読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第1段落: 地元での認知度が高く、贈答品や土産物として利用される高級菓子 とあります。現在の評価は、地元での知名度や贈答・土産用途と結びついています。
  • 第2段落: 創業以来営業を担当してきた専務をトップに 6 名からなる営業部門 とあります。少人数の営業部門は販路開拓に加え、配送・在庫管理も担っています。
  • 第7段落: 主力商品に依存、 首都圏出店の夢もいまだにかなっているわけではない、 人材の確保や育成も不可欠 とあります。既存商品の販売で成長してきた体制と、全国市場で戦うために必要な能力との差を読み取れます。
成長の実績から、次の成長の課題へ切り替える ​

第7段落の 「しかし」 は、工場整備による成長から、X社以来の商品への依存や未実現の全国展開へ話を切り替えます。これまで売上を伸ばせた仕組みを、そのまま拡大すれば目標へ届くのかを問い直す箇所です。

地元での強さと、全国で戦う力を分ける ​

ブランドが通用する範囲と、土産物としての特別感 ​

地元では、長く親しまれた銘菓という知名度が購入を後押しします。しかし、その歴史を知らない全国の顧客には、同じ名前だけで魅力が伝わるとは限りません。地域で評価されることと、全国の競合商品から選ばれることには隔たりがあります。

また、土産物には「その土地で選んだ」という特別感もあります。販路を広げることで、 地域性や希少性に支えられたブランド価値が薄れるおそれ も考えられます。これは将来のリスクであり、既に評価が下がったという事実ではありません。強みの成立条件を全国展開が変えてしまう可能性として捉えます。

全国向けの商品と販路を開く人材が必要になる ​

営業部門は既存取引先への対応や配送・在庫管理を担いながら、新しい販路も開拓しています。全国市場では、顧客の好みや競合を調べ、新商品の魅力を伝え、販売先を広げる仕事が増えます。 現在の少人数の営業体制に、全国向けの営業・マーケティングを担う能力や人員が十分か が問題になります。

県外の取引先は既にあるため、「県外への営業経験が一切ない」とは読みません。既存取引への対応から全国市場の本格開拓へ進む際に、仕事の量と必要な専門性が変わることを説明します。

全国展開のリスクを100字で答案化する ​

答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。

全国で需要を得られるかという市場リスク、商品開発・営業の人材不足、拡大を統制する管理者や品質管理の遅れ、投資・固定費の膨張を整理します。特にX社は販路・生産能力への過剰投資で負債を抱えたため、A社にも同様の拡大リスクが考えられます。いずれも既に起きた事実ではなく、全国展開の障害となり得る可能性として答案化します。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための情報源」と経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための事業化テストの取り組み方」は、顧客の嗜好や競合を調べ、展示会等で情報源とネットワークを広げる方法と4P・4C、標的モニター、採算性・安全性・生産計画等を確かめる事業化テストについて解説しています。本問では、「新市場で競争条件を再評価する」と「自社資源が新市場へ適合するか確認する」を2017年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸2017年度への当てはめ答案上の注意
新市場で競争条件を再評価する地元で高い知名度・希少性が全国でも通用するか地元の成功をそのまま全国へ外挿しない
自社資源が新市場へ適合するか確認する営業6名、直接販売なし、首都圏出店未実現広告費・物流費など与件にない一般論へ逃げない
必要な内部能力を特定する新商品開発人材と全国営業・マーケティング能力単なる人数不足で終えない

類題は、2016年度事例I第2問(設問1)(学校中心から企業・一般消費者へ市場開拓する際の営業・運営能力)、2018年度事例I第1問(資源制約からニッチ市場へ集中して大手との競争を避ける理由)、2023年度事例I第2問(先代との差別化と標的市場を選ぶ狙い)です。共通点は、新市場の魅力だけでなく、既存の強みが移転できるか、追加で必要な商品・販路・人材は何かを比較することです。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための情報源」(顧客の嗜好や競合を調べ、展示会等で情報源とネットワークを広げる方法) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための事業化テストの取り組み方」(4P・4C、標的モニター、採算性・安全性・生産計画等を確かめる事業化テスト)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2017年度の与件事実を主根拠にします。

第 5 問(配点 20 点) ​

設問文 ​

「第三の創業期」ともいうべき段階を目前にして、A 社の存続にとって懸念すべき組織的課題を、中小企業診断士として、どのように分析するか。150 字以内で答えよ。

回答例(123 字) ​

創業メンバーの退職に伴い経営ノウハウや価値観を継承し、社長・専務に偏る経営機能を次世代幹部へ引き継ぐ課題がある。主力商品依存を脱し新商品開発・全国販売を担う専門人材と部門を育て、計画的な教育・登用で社員の能力と参加意識を高める仕組みも必要である。

解説 ​

この問題の着眼点 ​

問われているのは、「第三の創業期」を迎えるA社の 存続に関わる組織的課題 です。創業メンバーの退職と全国展開への転換を重ね、 経営を継ぐ人、新しい仕事を担う機能、経験・価値観を受け継ぐ仕組み の三つを150字で整理します。

与件文から次世代へ移る組織の課題を読む ​

与件文のどこを見るか ​
  • 第2段落: 製造部門、営業部門、総務部門の 3 部門からなる機能別組織、 創業以来営業を担当してきた専務、 総務部門が社長の下で担当 とあります。現在の役割分担を踏まえ、経営を担う層と新たな専門機能が育っているかを考えます。
  • 第7段落: 全国の市場で戦うことのできる新商品の開発が不可避、 人材の確保や育成も不可欠 とあります。既存商品の運営だけでなく、商品開発・市場開拓を担う人材が必要になっています。
  • 第8段落: 共に苦労を乗り越えてきた戦友の多くが定年退職、 第三の創業期 とあります。創業時からの経験や価値観を持つ人々が退職し、次の担い手へ引き継ぐ局面です。

創業者の経験に支えられた運営を、次の組織へ移す ​

日々の部門運営と、会社全体を担う人材育成を分ける ​

製造・営業・総務に役割を分けた体制は、現在の主力商品を効率よく扱ううえで機能しています。一方、会社全体の進む方向や投資、人材配置を判断する役割は、部門の実務とは異なります。社長・専務が創業以来の経験を持ち、営業や総務もその下で動いているため、 経営判断やノウハウが経営陣個人に依存し、次の経営幹部が育たない懸念 があります。

創業メンバーの退職が進む今は、単に退職者の人数を補うだけでは足りません。誰が全社を見て判断できるようになるのかという、後継の担い手の育成を課題として捉えます。

既存商品の運営に加え、新商品・新市場を担う機能を持つ ​

第7段落の 「しかし」 は、既存商品での成長と、独自の商品で全国市場へ進む課題を対比します。いまの商品を作って届ける仕事と、全国の顧客を調べて新商品・販路を育てる仕事には、必要な知識や経験の違いがあります。

現在の三部門の説明だけでは、新商品開発や全国マーケティングを継続的に担う専門機能・人材が十分に備わっているかは見えてきません。したがって、 成長戦略に必要な専門機能と人材を今後どう確保・育成するか を懸念として整理します。機能別組織という名称を否定するのではなく、戦略に必要な仕事の担い手が足りるかを問います。

人が去っても、判断のよりどころが残るようにする ​

共に再建を経験した仲間には、顧客や取引先との関係の築き方、品質を守る姿勢、困難なときの判断など、仕事を通じて身につけた知識や価値観があると考えられます。こうした経験が個人の中にとどまれば、退職とともに失われ、後から入った社員には伝わりません。

経営理念・価値観や暗黙知を、組織として受け継ぐ仕組み も課題になります。与件に継承制度の全容が書かれているわけではないため、制度がないと断定せず、退職と成長戦略から必要になる仕組みとして説明します。経営幹部、新しい専門機能、知識の承継をそろえて、世代交代と成長を支えられる組織かを分析します。

存続に関わる組織的課題を150字で答案化する ​

答案の骨格は、 創業メンバーの退職に伴う知識・価値観の継承→社長・専務が担う経営機能の次世代幹部への移管→新商品開発・全国販売を担う人材と部門の育成 です。計画的な教育・登用で社員の能力と参加意識を高める仕組みも、第三の創業に必要な課題として示します。教育・登用制度が存在しないという事実を補うのではなく、今後必要な組織のあり方を推論します。

150字では、背景を短く共通化し、三つの観点におおむね40字程度ずつ使うと、特定の課題だけで字数を使い切るのを防げます。「育成が遅れている」「人材が不足する」「継承の仕組みが未整備」と、何が足りず、存続を難しくするのかを説明して結びましょう。


公的資料から持ち帰る知識と類題 ​

独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「後継者の選択と育成」と経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」は、承継候補と期間・将来像を定め、社内外の経験と責任ある地位で後継者を育てる方法と現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続きについて解説しています。本問では、「後継リーダーを計画育成する」と「成長戦略人材を確保する」を2017年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。

公的資料の判断軸当年度の与件への当てはめ答案上の注意
後継リーダーを計画育成する創業メンバー退職前に次世代幹部へ権限移譲後継者一人の指名で終えない
成長戦略人材を確保する新商品・全国マーケの専門人材を補う一般的な人手不足としない
暗黙知を継承する理念、品質判断、取引関係を共同業務・文書で移転マニュアル化だけで全て移るとしない

類題は、2013年度事例I第3問(新卒を将来の中核人材として長期育成する理由を問う問題)、2021年度事例I第2問(後継・管理人材を育成する問題)、2022年度事例I第4問(設問2)(次世代へ段階的に権限委譲する問題)です。共通点は、将来の役割から育成経路を逆算することです。本問は承継、新戦略の能力、理念・ノウハウ移転の三課題を分析します。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「後継者の選択と育成」(承継候補と期間・将来像を定め、社内外の経験と責任ある地位で後継者を育てる方法) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「事業承継の一般的な手続きと内容」(現状分析、後継者育成、段階的な承継、属人業務の標準化、PMIを含む事業承継の手続き)

この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では当年度の与件事実を主根拠にします。

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