Appearance
令和元年度(2019 年度)事例 Ⅰ 解答解説
目次は画面右上の「On this page」をタップしてください。
第 1 問(配点 20 点)
設問文
A 社長がトップに就任する以前の A 社は、苦境を打破するために、自社製品のメンテナンスの事業化に取り組んできた。それが結果的にビジネスとして成功しなかった最大の理由は何か。100 字以内で答えよ。
回答例(99 字)
葉たばこ生産者の減少で乾燥機の保守需要が縮小する一方、古い機器も個別対応して多種類の補修部品を抱え、管理費が増したため。対象機種や料金を採算で見直す管理が弱く、売上低迷と高コストを解消できなかった。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、メンテナンス事業が成功しなかった最大の理由です。失敗要因を横並びに列挙するより、対象となる市場が縮小していたことを中心に、売上と費用の両面から採算が成り立たない流れを100字で説明します。
現在の改革の評価でもなく、社長就任前に行った事業化が対象です。「修理する技術を持っているのに、なぜ事業として成り立たなかったのか」を考えると、技術と需要の違いに目が向きます。
与件文から売上と費用の制約を読む
与件文のどこを見るか
- 第3段落:たばこ市場の縮小傾向 に加え、葉たばこ生産者の後継者不足や高齢化 が進み、葉たばこの耕作面積も減少 しました。乾燥機を使う顧客基盤そのものが縮んでいます。
- 第4段落:メンテナンスの事業化は 売上減少と費用増大という二重苦 を生みました。故障対応の技術があるだけでは、収益を回復できなかったことが分かります。
- 第5段落:古い機械でも 客から依頼されれば個別に対応 し、膨大な数の部品が在庫となって収益を圧迫 していました。後の改革で明らかになった高コスト体質が、費用増大を具体的に説明します。
同じ顧客基盤に依存する限り、縮小から逃れにくい
新しい機械が売れないことと、使う人が減ることを分ける
新しい乾燥機が売れないので、既存機の修理で収益を補うという発想自体には筋があります。しかし、機械を使う生産者や耕作面積まで減っていると、修理対象も長期的には先細りになります。製品販売から保守へ変えても、需要の土台は同じ市場だという点が重要です。
機械の買い替えが少ないだけなら、既存機を長く使うための保守に需要が残ることもあります。本問ではそれに加え、葉たばこ生産者の後継者不足や高齢化、耕作面積の減少が書かれています。単なる買い控えではなく、その機械を必要とする顧客側の活動まで縮んでいた点が、最大の理由を考える手掛かりです。
したがって、「機械が古くなったので修理需要が増えるはず」とだけ読むことはできません。たばこ市場の縮小に加え、生産者の後継者不足や高齢化、耕作面積の減少が重なり、乾燥機の販売だけでなく保守の市場も制約する、という関係を押さえます。
顧客へ応えるほど、部品と個別対応の負担が残る
そこへ個別対応と多種類の部品在庫の負担が重なり、売上が回復しない一方で費用が増えました。「技術不足だった」「料金を無料にした」など、与件にない理由を加える必要はありません。
第5段落では、補修用性能部品の保有期間を過ぎた機械にも、依頼があれば 個別に対応 していたと説明されています。幅広い機種へ対応するため部品を抱え、その 在庫が収益を圧迫 しました。顧客に丁寧に応える行為が、そのまま採算のよい事業になるとは限らない具体例です。
第5段落は就任後に見直した高コスト体質を説明していますが、その対象は以前から続いていた対応です。第4段落にある 費用増大の背景 を具体化する根拠として使えます。一方、修理料金の設定や移動費の金額などは与件にないので、採算悪化の説明へ新しい事実を足さないようにします。
最大の理由を先に置き、費用の問題をつなぐ
市場縮小と在庫負担を、関係のない二つの欠点として並べるのではありません。売上を回復する土台が弱いまま、個別対応で費用が膨らんだため、経営危機を打開する事業にならなかったと整理します。需要の先細り→売上の制約、個別対応→費用増大 の両面が採算へ結びつきます。
メンテナンスの事業化そのものが一般に誤りなのではなく、A社では対象市場と対応方法の条件が厳しかったという説明です。後の乾燥技術の用途開拓とは異なり、この時点では同じ葉たばこ市場の外へ顧客基盤を広げられていなかった点が重要です。
メンテナンス事業の失敗理由を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
骨格は「保守需要の縮小+古い機器への個別対応による部品保有・管理費の増加+採算を見直す管理の弱さ→利益を確保できない」です。市場縮小という外部事情と、多種類の部品を抱える対応方法を結び、売上が伸びない一方で費用を抑えられなかった理由を説明します。改善策を列挙する問題ではなく、当時の失敗の因果を答えます。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。」は、売上高と費用を分けて損益分岐点を算定し、経営改善へ使う方法について解説しています。本問では、「売上規模と費用構造を分けて把握する」と「売上と総費用の関係から採算性を評価する」を2019年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2019年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 売上規模と費用構造を分けて把握する | 葉たばこ市場・生産者減少で保守需要が先細る | 「市場が縮小した」だけで終えない |
| 売上と総費用の関係から採算性を評価する | 個別メンテナンスで費用が増え、売上減少との二重苦になった | 第5段落の補修部品在庫と混同しない |
| 改善策は利益を生む売上規模・費用水準から考える | 縮小市場の個別保守では事業規模と効率を両立できない | 一般的なコスト削減策まで答案へ広げない |
類題は、2016年度事例I第1問(設問2) の新規事業が成果を上げなかった要因と、2014年度事例I第2問 の製品が主力化しなかった理由です。共通点は、需要・市場との適合と自社の資源・費用を分け、事業化できなかった因果を説明することです。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。」(売上高と費用を分けて損益分岐点を算定し、経営改善へ使う方法)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2019年度の与件事実を主根拠にします。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
A 社長を中心とした新経営陣が改革に取り組むことになった高コスト体質の要因は、古い営業体質にあった。その背景にある A 社の企業風土とは、どのようなものか。100 字以内で答えよ。
回答例(95 字)
規制と補助金で成長した成功体験に依存し、採算より顧客の個別要求への対応を優先する風土。全社的な計数管理を欠き費用や在庫を把握せず、古参社員が従来の営業方法に固執して変革を受け入れにくかった。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、在庫や帳簿そのものではなく、高コスト体質の背景にある企業風土です。なぜ費用を意識せず、従来のやり方を変えなかったのかを、過去の成功体験と現在の行動から100字で説明します。
企業風土とは、ここでは社員たちに共有されていた考え方や、当たり前になっていた行動の傾向です。現象を見つけたら、「なぜその対応が当然とされ、見直されなかったのか」まで一段掘り下げます。第1問の失敗原因をそのまま繰り返すのではなく、同じ対応を続けた組織の背景に目を向けます。
与件文から変わりにくい組織の背景を読む
与件文のどこを見るか
- 第3段落:厳しい規制に守られた参入障壁の高い業界 で、顧客には 多額の補助金 が支給され、売上が伸びていました。厳しい競争下で採算を見直す必要性を感じにくかった背景です。
- 第5段落:客から依頼されれば個別に対応 し、全社的な計数管理が行われない 状態でした。顧客に応える行動が、費用や採算の確認と結びついていません。
- 第4段落:古き良き時代を知っている古参社員たち は新事業を簡単には受け入れませんでした。かつて成功した事業・方法へのこだわりが読み取れます。
成功したやり方を、環境が変わっても続ける
保護された市場で、従来の対応が成功していた
第3段落では、 たばこ産業の参入障壁が高く、補助金も支給 される環境で、既存顧客への対応が売上成長に結びついていました。
その環境では、既存顧客の要望に応じることが売上成長に結びついていました。過去にうまくいった方法ほど、それを変える必要性を感じにくくなります。市場が変わった後も同じ方法でよいと考えてしまう点を、成功体験への固執 とまとめられます。
顧客対応を、費用と採算の確認につなげていなかった
顧客の要望へ丁寧に応えること自体は悪いことではありません。問題は、 対象市場が縮んでも、収益への影響を確かめずに同じ個別対応を続けたこと です。守られた市場での成功が、 コスト意識の弱さ や 従来の方法への固執 につながったと考えます。
依頼を受けた時に、その対応で採算が取れるのか、必要な費用や部品在庫が利益を圧迫しないかを確かめる計数管理が行われていませんでした。その結果、個別対応の量や忙しさは増えても、会社に利益が残るかを判断できない状態になっていたと考えます。
営業社員が忙しく働いていても、個別対応を積み重ねるほど利益が悪化することがあります。「よく対応したか」だけで仕事を捉え、「利益が残ったか」を組織で確かめないことが高コスト体質につながったと考えます。
数字で見直す仕組みも、変革への姿勢も弱かった
手書きでも採算管理ができていれば、直ちに問題とは限りません。ここで問題なのは、手書き処理そのものではなく、全社的な計数管理が行われていないために費用や在庫の負担を会社全体で把握し、対応を変える仕組みがなかったことであり、手書きという 個別の現象から、組織で共有されていた判断の傾向へ一段まとめる ことが必要です。
さらに、第4段落では古参社員が新事業を簡単に受け入れませんでした。以前の市場で成功した経験が強いほど、従来と異なる顧客や用途へ取り組む意味を受け止めにくかったと考えられます。年齢だけで変革への姿勢を決めつけず、過去の経験と現在の行動のつながりから保守性を説明します。
ここまでの根拠をつなぐと、A社では、顧客要望へ応じる従来の仕事を数字で評価し直す仕組みがなく、新事業へ転換する必要が生じても、過去に成功した方法を変えにくい状態でした。高コスト体質は、計数管理の不足と、変革を受け入れにくい風土が重なって続いたと整理できます。
高コスト体質の背景を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
安定市場での成功体験 から コスト意識の弱さ、さらに 個別要求へ無批判に応じ、変革しない保守的な風土 へつなぎます。「在庫が多かった」だけで終えず、 それを放置した考え方 まで説明します。
具体的な行動を残し、最後を企業風土へまとめる
骨格は「守られた市場での成功体験→顧客要求を採算より優先+数字で費用を見直さない→従来の方法に固執する風土」です。全社的な計数管理の不足を一言残すと、なぜコスト意識が弱いと読めるかが具体化します。手書きであることだけを問題にせず、費用や在庫を把握し改善する仕組みの弱さへつなげます。
公的資料から持ち帰る知識と類題
2021年版中小企業白書は、事業環境の変化に応じて経営戦略を柔軟に見直すことと、試行錯誤を許容する組織風土の重要性を示しています。本問では、逆に過去の成功体験が変革を妨げた構造を確認します。
| 公的資料の判断軸 | 2019年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 環境変化に応じて戦略・事業領域を見直す | 規制・補助金下の成長後も従来の顧客対応を続けた | 理念の有無ではなく適応を妨げる風土を問う |
| 試行錯誤や新たな挑戦を許容する | 古参社員は新事業を容易に受け入れなかった | 「保守的」だけで終えず行動事実を書く |
| 日常の管理行動まで変える | 個別部品対応、膨大な在庫、手書き帳簿、計数管理不足 | これらは第5段落の事実として扱う |
類題は、2015年度事例I第5問 の組織文化変革と、2025年度事例I第4問 の理念再定義・浸透です。本問では将来施策でなく、成功体験がコスト意識欠如と変革抵抗を生んだ原因を答える点が異なります。
出典:中小企業庁「2021年版中小企業白書 第2部第1章第3節」(戦略の柔軟な見直しと試行錯誤を許容する組織風土)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2019年度の与件事実を主根拠にします。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、新規事業のアイデアを収集する目的で HP を立ち上げ、試験乾燥のサービスを展開することによって市場開拓に成功した。自社製品やサービスの宣伝効果など HP に期待する目的・機能とは異なる点に焦点を当てたと考えられる。その成功の背景にどのような要因があったか。100 字以内で答えよ。
回答例(100 字)
HPで潜在顧客から乾燥用途の相談を集め、送られた実物を試験乾燥して返し、双方で性能と用途への適合を確かめたため。結果を提案に生かす双方向の仕組みが、食品会社等の新用途・新市場との関係構築につながった。
解説
この問題の着眼点
設問は、HPの宣伝効果とは異なる機能に焦点を当てています。「多くの人に知られた」だけではなく、A社には見えていなかった用途を顧客側から教えてもらった仕組みを100字で説明します。
HPを作ったこと自体より、そのHPを使ってどの情報を得たかが重要です。A社は乾燥機器を開発できても、それを必要とする顧客や用途を十分には把握できていませんでした。自社だけで考える限界を、潜在顧客とのやり取りによって補ったと読みます。
与件文から試験乾燥の意味を読む
与件文のどこを見るか
- 第7段落:機器・ソフトウェア・燃費効率の改善に成功し、新規事業の基盤が徐々に固まってきた 段階です。技術開発は進みましたが、市場や用途の探索はまだ残っています。
- 第8段落:機器を開発しても 何を何のために乾燥させるのか が分からず、ターゲット市場を絞ることはできなかった とあります。不足していたのは技術の説明だけでなく、用途と市場の情報です。
- 第9段落:A社は 潜在市場の見えない顧客に用途を問う ことを選びました。送ってもらった対象物について それを乾燥させて返送する 「試験乾燥」というサービス を始めた結果、さまざまな市場との結びつき ができています。
技術の発信を、用途の情報が戻る仕組みにする
作れるようになったことと、売る相手が分かることは別である
第8段落の 「しかしながら」 は、機器やソフトウェアの開発成功に対して、市場開拓と販路づくりは残っていることを示します。
第7段落の技術開発で、 事業化まで完了したとは読まない ことが大切です。
農作物を乾燥できるという説明だけでは、どの企業が何の目的で使いたいかは分かりません。A社が自分たちの経験の範囲で考えると、キノコや果物など従来に近い用途にとどまっていました。足りなかったのは機械の性能を伝える情報だけでなく、技術を必要とする相手と、その利用目的の情報 です。
潜在顧客から、対象物と用途の情報を受け取る
HPで技術を知らせるだけなら一方向の発信です。試験乾燥では、顧客が乾燥したいものを送り、A社が実際に乾燥して返します。この往復によって、どのようなものを、どのような目的で乾燥したいかが具体的に分かります。
まだ取引のない相手でも、乾燥したい対象物を持っていればサービスへ参加できます。A社から用途を決めて売り込むだけでなく、相手が持つ課題を起点に技術の使い道を見つけられる点が、 双方向の情報収集 という意味です。HPへの反応を単なる閲覧として受け取らず、 用途探索の材料 へ変えています。
「新規事業のアイデアを募集した」と抽象的にまとめるより、試験乾燥という具体的な往復を残すと、その仕組みが伝わります。顧客は使いたいものを示し、A社は自社の技術で試し、その結果を返す。このやり取りが、 技術と潜在的な需要を結びつけ ました。
顧客も結果を確かめられるため、次の関係へ進める
顧客にとっても、説明だけで判断するより、自分の対象物で結果を確かめられます。A社が想定していなかった食品会社や漢方薬メーカー等から情報が集まり、新しい用途と顧客関係が生まれました。単なるアクセス数の増加ではなく、顧客と一緒に用途を発見したことが成功の背景です。
試験結果を見れば、自分の用途で利用できそうかを具体的に検討しやすくなります。A社にも、相手が何を必要としているかを知り、次の相談や提案へつなげる接点ができます。これが、一度広告を見てもらうだけの場合との違いです。
与件が示している成果は、初年度100件以上の依頼と、多様な市場との結びつきです。依頼が全て製品購入へ転換した、売上が何倍になった、とまでは書かれていません。模範解答の継続的な関係構築は、このやり取りをきっかけに市場との接点を得た意味として理解し、受注率などを補わないようにします。
営業部隊のプレゼンテーションも貢献しています。ただし、 本問の焦点は宣伝効果と異なる機能 です。営業の上手さを主因として置き換えず、顧客から情報が戻る仕組みを中心に説明します。
HPと試験乾燥の成功要因を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
用途が不明な中、HPを双方向の情報収集に使った、試験乾燥で潜在顧客の用途を把握した、新市場との関係を作った とまとめます。宣伝・知名度向上に字数を使いすぎず、情報が顧客からA社へ戻る点を明示しましょう。
情報の流れる向きを言葉にする
骨格は「HPで用途・需要を収集→送られた実物を乾燥して返却→双方が性能・適合を確認→試験結果を次の提案と市場開拓へ活用」です。顧客からA社へ情報が戻るだけでなく、A社から試験結果を返す動きも残します。売上や成約率を創作せず、従来接点のない市場との関係が生まれたことへ結びます。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」は、SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくりについて解説しています。本問では、「自社だけでは分からない需要・着想を外部から得る」と「試作・実験で曖昧なニーズを具体化する」を2019年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2019年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 自社だけでは分からない需要・着想を外部から得る | 潜在顧客に乾燥したいモノと用途を問う | HPの宣伝効果を主因にしない |
| 試作・実験で曖昧なニーズを具体化する | 試験乾燥を実施し、モノを返送する | 問い合わせ件数だけを成果にしない |
| 得た情報を新市場・製品へつなぐ | 食品会社、漢方薬メーカー、地域等と結び付いた | 情報収集から市場発掘まで因果で書く |
類題は、2013年度事例I第4問 の顧客データを新商品開発へ結び付ける課題と、2014年度事例I第2問 の技術・製品を主力事業へ育てる条件です。いずれも情報や技術を保有するだけでなく、市場ニーズとの接続が論点です。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「商品開発・市場開拓のための社内外の組織・体制づくり」(SWOTによる内部・外部環境の整理、顧客・取引先の声を集める仕組み、異業種・異分野との接点づくり)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2019年度の与件事実を主根拠にします。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
新経営陣が事業領域を明確にした結果、古い営業体質を引きずっていた A 社の営業社員が、新規事業の拡大に積極的に取り組むようになった。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で答えよ。
回答例(98 字)
乾燥技術を軸とする事業領域を共有し、営業の方向を明確にしたこと。試験乾燥や新製品への反応で可能性と自信を得たうえ、組織の若返りで改革への抵抗が弱まり、成果連動賞与で新規開拓への意欲が高まったため。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、営業社員が新規事業へ積極的になった理由です。製品が売れるようになったことだけでなく、進む方向が分かったことと、挑戦する意欲を支える人事面の変化を100字で説明します。
第2問では、かつての成功体験から新しい仕事を受け入れにくい企業風土を読みました。本問では、その状態をどう変えたかを考えます。「意識改革をしたから」ではなく、仕事の捉え方と成果への報い方が変わり、営業社員の行動へつながった理由を示します。
与件文から行動が変わった条件を読む
与件文のどこを見るか
- 第7段落:コア技術を 農作物の乾燥技術 と位置づけ、それを社員に共有 しました。葉たばこ乾燥機という一製品に縛られず、自社が提供できる価値を捉え直しています。
- 第6段落:従業員の年齢が 10 歳程度も引き下がり、成果に応じて支払う賞与 へ資金を回せるようになりました。組織の構成と、成果への報い方にも変化があります。
- 第9段落:営業部隊のプレゼンテーションが功を奏した とあります。技術の可能性を顧客へ伝える営業活動も、市場開拓に貢献しています。
「何を目指すか」と「取り組む意欲」をそろえる
第7段落の 「一方で」 は、コストや人員の見直しだけでなく、新規事業の方向づけも同時に進めたことを示します。削減だけで意欲が高まったと捉えず、次に取り組む仕事を明確にした点を読みます。
葉たばこ乾燥機の販売だけを仕事と考えていると、別の用途への営業は本業と無関係に見えます。 乾燥技術を活かす企業だと共有する ことで、 新しい作物や顧客への提案も自分たちの仕事として理解しやすく なります。
一つの製品から、応用できる技術へ仕事の範囲を捉え直す
「葉たばこ乾燥機」と「農作物の乾燥技術」では、社員が考えられる提案の範囲が違います。前者は 特定の顧客が使う製品 ですが、後者は 複数の農作物や用途へ応用できる力 です。事業領域を明確にするとは、製品名を言い換えるだけでなく、どの力を使って次の顧客へ価値を提供するかを示すことです。
既存の技術を使う方向なので、社員にとっては今までの仕事が全て無駄になるわけではありません。積み重ねた知識を別の用途にも活かせると分かれば、新しい営業を従来の仕事の延長として捉えやすくなります。持っている強みと、これから取り組む仕事をつなぐ ことが、方向づけの意味です。
経営者だけでなく、営業社員にも方向を共有する
社長だけが新事業の可能性を理解していても、顧客へ出向く社員が同じ方向を向いていなければ、提案は広がりません。第7段落が明記する 「社員に共有」 が重要です。何でも自由に売ってよいのではなく、乾燥技術という共通の軸を持って、新しい用途や顧客を探せるようにします。
ここから、新しい顧客の話を自社の技術に結びつけ、提案する活動が考えられます。第9段落の営業プレゼンテーションは、そのように 営業が市場開拓へ貢献 した事実です。ただし、特定の研修や目標管理制度が導入されたとは書かれていないため、行動変化の理由を架空の制度で補わないようにします。
成果を処遇へ結び、取り組む意欲を支える
人員削減によって従業員の平均年齢が下がり、古き良き時代の成功体験に基づく新事業への抵抗が弱まりました。さらに、削減したコストを 成果に応じた賞与 へ回したことで、新しい取り組みの成果が処遇に結びつくようになり、挑戦する意欲も高まりました。 組織の若返りによる変革抵抗の緩和 と 成果連動賞与による動機づけ の両面から捉えます。
ただし、人員削減は苦渋の決断として描かれています。「高齢者は挑戦しない」と一般化したり、抵抗する社員が全員いなくなったと断定したり、解雇への恐怖で営業社員が動いたと説明したりはしません。古参社員が新事業を容易に受け入れなかった事実と、その後に従業員の年齢が下がった事実を結びつけ、旧来の成功体験に固執する影響が弱まったと読みます。
戦略面だけでは「何をするか」の説明にとどまり、人事面だけでは「なぜその新事業か」が伝わりません。方向づけと動機づけがそろったことで、新規事業へ力を向けやすくなったというつながりが中心です。
営業社員が積極的になった要因を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
事業領域の共有による方向づけ と 人員構成・成果連動賞与による意欲向上 をつなげます。戦略だけ、報酬だけに偏らず、何へ取り組むかが明確になり、それに挑戦する動機も整ったと説明します。
行動の変化に至る二つの要因を確保する
乾燥技術という方向の共有に加え、新製品や試験乾燥への反応から技術の可能性を確かめたことが、営業の自信につながったと考えます。組織の若返りによる旧来の抵抗の緩和と、成果連動賞与による動機づけを合わせ、取り組む方向・手応え・努力が報われる仕組みを説明します。年齢だけで意欲を決めつけないようにします。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」と経営ハンドブック「理念経営」は、理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法と存在意義・目的を理念として明文化し、日常の判断・行動基準へ浸透させる考え方について解説しています。本問では、「経営戦略と期待行動を結び付ける」と「貢献が評価・報酬へつながるようにする」を2019年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2019年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 経営戦略と期待行動を結び付ける | 農作物の乾燥技術を事業領域として社員へ共有 | 組織形態の選択問題にしない |
| 貢献が評価・報酬へつながるようにする | コスト削減分を成果に応じた賞与へ回した | 賞与だけの金銭動機に偏らない |
| 目標共有と制度を組み合わせる | 若返った組織が新規事業の方向へ挑戦した | 「意識が変わった」で止めず仕組みを書く |
類題は、2018年度事例I第4問 の非金銭的動機づけと、2012年度事例I第5問 の成果主義型賃金制度です。本問では、事業領域・目標共有という内発的な方向付けと、成果連動賞与という外発的な誘因の両方を使います。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「人事評価制度と賃金制度の改善」(理念・事業計画・求める人材像と評価を結び、明確・公平・透明な基準と面談・フィードバックで運用する方法) / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21経営ハンドブック「理念経営」(存在意義・目的を理念として明文化し、日常の判断・行動基準へ浸透させる考え方)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2019年度の与件事実を主根拠にします。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
A 社長は、今回、組織再編を経営コンサルタントの助言を熟考した上で見送ることとした。その最大の理由として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で答えよ。
回答例(98 字)
新事業も共通の乾燥技術を用い、80名規模の開発・製造・営業資源を機能別に集約する方が重複を避け専門性を生かせるため。経営陣の連携で新事業に対応でき、基盤を固める段階で再編せず市場開拓に集中できる。
解説
この問題の着眼点
問われているのは、組織再編を今回見送った最大の理由です。新事業なら必ず事業部制にするのではなく、市場・戦略がどの段階にあり、現在の組織がどのように機能しているかから判断します。
与件の「創業当時の機能別組織のまま」という表現を見ると、古いから変えるべきだと考えがちです。しかし、設問は見送った理由を求めています。組織の新しさではなく、今の仕事を進めるうえで何が必要で、どの仕組みを活かせるかを確かめます。
与件文から再編の時期を読む
与件文のどこを見るか
- 第7段落:自社のコアテクノロジーを 農作物の乾燥技術 と位置づけています。市場ごとに異なる技術を持つのではなく、新用途でも共通して使う技術の軸です。
- 第8段落:新事業では 販売チャネルの構築も不可欠 で、当初は ターゲット市場を絞ることはできなかった とあります。機器開発の成功だけで、事業の形が確定したわけではありません。
- 第9段落:試験乾燥を通じ さまざまな市場との結びつき ができました。用途は広がっていますが、探索して得た機会をどの事業へ育てるかを見極める段階と捉えます。
- 第10段落:営業を主に統括するのが副社長、開発と製造を主に統括するのが専務 で、すべての部門に A 社長が目配り しています。機能別組織でも、経営陣が横断的に調整する体制があります。
- 第11段落:助言は 現段階での組織再編には賛成できない というものです。将来も不要という結論ではなく、現在の戦略や事業化の段階に照らした判断を求めています。
組織が古いことと、再編が必要なことを分ける
技術の軸は明確でも、市場ごとの事業はまだ育てる段階にある
第7段落で 乾燥技術 という軸が明確になり、第9段落では 多様な市場との接点 もできました。ただし、それぞれの市場にどの製品を、どの販路で提供し、どこへ資源を重点配分するかまで確立したとは書かれていません。技術の軸が定まったことと、事業別に運営を分ける条件が整ったことは別です。
第8段落の 市場を絞れなかった 状態を、現在も全く顧客が見えていないという意味に固定してはいけません。試験乾燥によって機会は広がっていますが、その機会を継続的な事業へ育てる途中です。つまり、方向が何もないのではなく、市場を探索中で事業戦略が未確立なため、独立した事業区分を固めるには早いと判断します。
機能ごとに力をまとめ、経営陣が横断して調整できる
創業時と同じ機能別組織であることだけを、欠点とは判断しません。営業・開発・製造の専門性を集め、経営陣が連携して新用途を事業化する現在の段階では、既存体制を活用する合理性があります。
営業が得た顧客の用途情報を、開発・製造が技術的に検討するには、機能を越えた調整が必要です。第10段落では、 副社長が営業、専務が開発・製造を統括し、社長が全体を見る関係 が示されています。部門が分かれていても、それを結ぶ役割が経営陣にあることを根拠として読みます。
機能別組織なら自動的に連携できるという意味ではありません。A社では経営陣の役割分担と全体への目配りがあり、現在の体制のままでも新用途への対応を進められると考えます。これを「現行組織が改革推進に有効に機能する」とまとめます。社内の調整が全く不要になったという説明にはしません。
先に事業別へ分けると、共通の資源を活かしにくくなるおそれがある
用途や市場がまだ固まっていない段階で事業別に細かく分けても、どの部門にどの顧客や案件を担当させるかを安定して決められません。新しい用途が見つかるたびに担当や資源配分を見直すことになり、かえって組織を効率的に動かしにくくなります。
A社の新規事業は、市場や用途が異なっても共通の乾燥技術を使います。市場ごとに専属の営業・開発・製造担当をそろえるより、機能別に専門人材をまとめ、案件に応じて組み合わせる方が、限られた人材と技術を活かしやすい段階です。戦略と成長段階に合わせて組織を選ぶという判断が中心です。
これは事業別の組織が常に非効率という意味ではありません。将来、市場ごとの顧客・販路・必要な判断が明確になり、経営陣だけでは調整しきれなくなれば、再編を検討する理由になります。しかし、今は分ける単位そのものが定まっていないため、「今回」「現段階」では再編しないと結論づけます。
組織再編を見送った理由を100字で答案化する
答案の骨格は、次の論点を設問の順に整理することです。
骨格は「新用途でも共通の乾燥技術を使う→限られた専門人材を機能別に集約できる+経営陣が調整できる→再編せず新事業の基盤づくりへ集中」です。80名という人数自体を必須語にせず、小規模な資源を分割すると機能の重複が生じやすい理由を示します。費用が実際に増えたと断定せず、分割を避ける意義として説明します。
公的資料から持ち帰る知識と類題
独立行政法人中小企業基盤整備機構のJ-Net21にある「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」は、商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点について解説しています。本問では、「組織変更より先に戦略・目的を明確にする」と「事業特性に合う分業単位を選ぶ」を2019年度の与件事実と設問要求へ当てはめます。
| 公的資料の判断軸 | 2019年度の与件への当てはめ | 答案上の注意 |
|---|---|---|
| 組織変更より先に戦略・目的を明確にする | 新市場と販売チャネルが探索段階 | 単なる混乱回避を最大理由にしない |
| 事業特性に合う分業単位を選ぶ | 再編すべき事業単位をまだ確定できない | 直ちに事業部制を選ばない |
| 現行組織の機能と変更コストを比較する | 機能別組織を経営陣の役割分担で統括 | 現行組織が改革に使えている点も書く |
類題は、2022年度事例I第4問(設問1) の事業部制選択と、2025年度事例I第3問 の新規事業成長に向けた組織改革です。本問は組織形態を選ぶ前段階で、戦略未確立ゆえ再編が時期尚早だと判断する点が対照的です。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「営業部門を再編したいのですが、どのような組織編成にすればよいでしょうか?」(商品・顧客・事業特性と再編目的に応じて、機能別組織や事業部制等を選ぶ視点)
この公的資料と類題は理解を補助するものであり、当該年度の公式解答や採点基準ではありません。答案では2019年度の与件事実を主根拠にします。

